宿だけでなく温泉街全体を!星野リゾートの再生作戦【前編】
上質なくつろぎ空間や、ホスピタリティ、目でも舌でも楽しめるグルメ、その土地の伝統を感じられるアクティビティ……。多彩な魅力を持ち、多くの人に愛されている「星野リゾート」が、環境問題などにも積極的に取り組んでいることをご存じですか?
ホテルジャーナリスト・せきねきょうこさんならではの視点で、日本を代表するサステナブルなリゾート、星野リゾートの魅力に迫ります。今回は、ただ宿泊施設を誕生させるだけでなく、温泉街の再生まで考えた「界 長門」の魅力に迫ります。
春の桜、初夏の蛍、秋の紅葉。
四季を彩る星野リゾート「界 長門」
「界 長門」は、星野リゾート「界」ブランドの16番目の施設として、2020年3月12日、山口県の長門湯本温泉に開業しました。長門市の山間部を流れる音信川に沿って広がる長門湯本温泉は、山口県最古の歴史ある湯治の温泉として知られています。その歴史をたどれば、600年も前の室町時代、大寧寺(応永17年当時の守護代・鷲頭弘忠創建と伝わる曹洞宗の名刹)で定庵禅師が座禅のさなか、住吉大明神のお告げで発見されたと伝えられています。
1970年代には年間40万人もの人が訪れていたという長門湯本温泉ですが、時代とともに訪れる人は減り、一時は静かな温泉地となります。しかし、2016年にロシアのプーチン大統領と安倍晋三元首相がこの地でトップ対談をしたことで、再び全国にその名が知れらるようになりました。
「界 長門」が建つ場所は、江戸時代から150年間も続いた料理自慢の老舗旅館「白木屋グランドホテル」の跡地。これほどまでに大きな旅館が倒産したのは、時代のニーズに追いつけなかったのも一因でしょう。そんな折、前長門市長から、ホテルの跡地を利用する開発プロジェクト誘致がありました。
そこで星野リゾートは、「界の進出だけでなく、マスタープランをつくり温泉街全体を魅力的にしよう」と、画期的なプランを企画し提案しました。このプロジェクト振興のなかで界 長門が誕生。温泉地まるごと再生のスタートでもありました。
山口宇部空港から車で75分という距離も人足を遠ざけてしまったのかもしれません。しかし旅好きは、遠隔地や僻地にわざわざ行くという習性があり、かくいう私も世界の旅では、時差を含めて3日もかかる遥かなる地へと向かうことも。それを思えば車で75分のアクセスは、ワクワク・ドライブの範疇でしかありません。
界 長門
山口県長門市深川湯本2229-1
☎0570-073-011(界予約センター)
客室数/40室 施設/大浴場、湯上がり処、食事処、トラベルライブラリー、ショップ、あけぼのカフェ ほか
アクセス/車:中国自動車道 美袮ICより約30分、山口宇部空港より約75分 電車:JR長門湯本駅より徒歩15分
PROFILE
せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。仏国アンジェ・カトリック大学留学後、スイスの山岳リゾート地の観光案内所に勤務。期間中に3年間の4ツ星ホテル居住。仏語通訳を経て1994年、ジャーナリズムの世界へ。ホテルの「環境問題、癒やし、もてなし」の3テーマで現場取材を貫く。世界的ブランドホテル「AMAN」のメディアコンサルタント、他ホテルのアドバイザーも。連載・著書多数。
●情報は、『麗し日本旅、再発見!星野リゾート10の物語』発売時点のものです(2021年4月)。
Text:せきねきょうこ Photo:玉井幹郎 Composition:林愛子