最新技術で守り、活用する。歴史的建造物の明るい未来
富岡製糸場は明治政府が日本の近代化を目指して明治5年(1872年)に設立した日本初の本格的な模範器械製糸場である。
木の骨組みに煉瓦で壁を積み上げた木骨煉瓦造の美しい和洋折衷の建築が特徴の富岡製糸場。当時、世界最大規模の製糸場として明治、大正、昭和と日本の製糸業をリードし続けたのち、昭和62年(1987年)に操業停止となる。だがその後もほぼ当時と変わらぬ姿で大切に保存され、平成17年(2005年)に国史跡に、平成18年(2006年)7月には主な建造物が重要文化財に、平成26年(2014年)6月にはユネスコの世界遺産に登録。さらに同年12月には繰糸所、西置繭所、東置繭所の3棟が国宝に指定された。
富岡製糸場を残していくために、富岡市は平成24年(2012年)に「史跡・重要文化財(建造物)旧富岡製糸場整備活用計画」を策定。富岡製糸場が重ねてきた歴史とシステムを重視し、約30年計画で全施設の保存整備事業をスタート。まずは総合的な防災工事や西置繭所の保存修理、トイレなどの整備に取り組むこととなった。
主に繭を保管する倉庫として使われてきた西置繭所は、それまで観光客が中に入ることはできず、外観を見ることしかできなかった。そこで、中に入って見学できるように、また、保存するだけでなくさまざまな形で使用できるようにと、本格的な保存修理と耐震補強、そして活用するための整備がスタートした。
工事は足かけ6年がかりでおこなわれ、令和2年(2020年)に完成。1階には耐震補強用の鉄骨を骨組みとして活用したハウスインハウス手法による多目的ホールとギャラリーが整備され、同年10月にグランドオープンした。壁と天井がガラスであるため、中に居ながらガラス越しに国宝を見ることができるのは、実に新鮮な体験だ。貯繭倉庫として長年使われていた2階も展示エリアとなり、当時の様子を知ることができる。
最新の資材や技術を投入し、歴史的価値を担保しながら、より親しまれる施設として生まれ変わった富岡製糸場 西置繭所。外から眺めるだけでなく、先人の知恵や技術を間近に見ることができる貴重な場として、また、文化芸術を生み育てる施設として未来に残り続けていく、国宝の新しい姿である。
世界遺産 富岡製糸場
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