哲学研究者・永井玲衣が選ぶ「気候危機を学べる本&映画」
難しい専門書でなくても、気候や環境の問題を多角的に学べる手段はたくさんあります。哲学研究者の永井玲衣さんがオススメする本と映画を見てみましょう。
80年以上前の小説からの問いかけを
私たちは今どう受け取るのか
1930年代にして気候変動を取り上げたのが、アメリカの大作家ジョン・スタインベックの小説『怒りの葡萄』です。物語の発端は、干ばつと砂嵐によって農民たちが土地を追われるという社会問題。これを機に農業の機械化を進める資本家たちと、貧困にあえぐ農民層との闘争が描かれていくんですが、ここで示されるのは資本主義の限界。気候変動が資本主義の加速と連関していることは、日本では近年、経済思想家の斎藤幸平さんの論によって広く知られましたが、80年以上も前に提議する先進性に驚かされますし、あらためて問題の根深さを痛感します。
そして、アメリカのスタンドアップ・コメディアンが痛烈な風刺を交えながら政治や社会の問題を取り上げるのが『ハサン・ミンハジ:愛国者として物申す』。この番組が素晴らしいのは、“入り口”のユニークさ。伝えるべき社会問題をテーマとして前面に出すのではなく、豪華な大型クルーズ船をきっかけに労働搾取の問題を取り上げたり、ヒップホップを契機に政治圧力を問題にしたりなど、視聴者を飽きさせない工夫がなされています。
そして「ファストファッションの弊害」の回で伝えられるのが気候変動。豊富な情報とお腹が捩れるほどの笑いを盛り込みながら、とにかく楽しく学ぶことができます。ただ、『怒りの葡萄』しかり、それだけで終わらず、受け取った君はどうするかとの問いかけがあるのが素晴らしい。力のある作品です。
『怒りの葡萄』
ジョン・スタインベック/著 黒原敏行/訳
世界恐慌下のアメリカを描いた小説。初版は1939年。本作により、著者は40年にピューリッツァー賞を、のちにノーベル文学賞を受賞した。上・下巻。ハヤカワepi文庫。
『ハサン・ミンハジ:愛国者として物申す』より
「ファストファッションの弊害」
ファストファッションの台頭に伴い、近年アメリカ国内の衣服の購入量は激増している。だがその消費者の止まることのない欲望の先には、甚大な環境被害があった。
PROFILE
永井玲衣 REI NAGAI
哲学研究者。1991年東京都生まれ。学校、企業、寺社、美術館、自治体などで哲学対話を行うほか、エッセイなどの執筆も。著書に『水中の哲学者たち』(晶文社)がある。
●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Illustration:Toru Ogasawara Text:Emi Fukushima Text & Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子