ヘラルボニー・松田文登「“異彩”のアートが、障がいのイメージを変える!」
近年、ジェンダーやダイバーシティへの認識が急速に変わりつつあります。それは、これまで声を上げてきた人の存在があったから。ヘラルボニー代表取締役副社長の松田文登さんが、アクションを起こすようになったきっかけとは?
ギャラリーにあるのは
“障がい者が描いたアート”ではなく、
“障がいは欠落ではないという思想”
いくつもの円をボールペンで描いたサークル状の模様に、数字をつなげた幾何学的な柄……。障がいのあるアーティストが手がけた作品は独特な形状や色彩で、見る人を圧倒する。岩手県出身の双子の兄弟、松田崇弥さん・文登さんが代表を務めるヘラルボニーは「福祉実験ユニット」と名乗り、ライセンス契約を結んだアーティストの作品をさまざまなもの、こと、場所に落とし込む事業を展開している。
アートライフブランド「HERALBON」のプロダクトは、ハンカチやスカーフ、ネクタイ、傘、財布など多岐にわたる。2021年4月には岩手県盛岡市に、本社の機能を兼ねた「HERALB ONY GALLERY」がオープンした。ここで迎えてくれたのは、兄で副社長の松田文登さんだ。
「いまはまだ『障がいのある人が描いたアート』とひとくくりにされていますが、『小林覚さんの作品がほしい』『佐々木早苗さんの作品が好き』というように、作家さんの名前が先に出るようになっていってほしい。だから、この場所では個人にフォーカスした企画展示を周期開催し、アートの発信基地にしていきたいんです。私たちが販売するのは『障がい者が描いたアート』ではなく『障がいは欠落ではないという思想』です」
実はヘラルボニーが誕生した背景には、双子にとってのお兄さんの存在があった。
「4歳上の兄には知的障がいを伴う先天性の自閉症があり、小さいころから『かわいそう』という目を向けられてきました。僕らはそのことにすごく違和感を抱いていたんです。兄はアートを描けないのですが、こうした作品を通じて、障がいのイメージを徐々に変えていけたら、最終的には兄にもつながっていくはずです」
2020年には建設現場などで使用される仮囲いにヘラルボニーのアート作品を展覧する「全日本仮囲いアートミュージアム」をスタート。また展示作品をアップサイクルし、トートバッグとして販売するプロジェクト「アップサイクルアートミュージアム」も開始するなど、新たなことに挑戦し続けている。通常、大型の掲示物は展示後に破棄されるが、このプロジェクトでは再利用可能な防水布を使用することで、裁断しアップサイクルできるという。作品提供料や売り上げの報酬は福祉施設及び障がいのあるアーティストに還元される。
「障がいのある人がつくった作品を販売しようとするときに、支援や福祉といった文脈に結び付けられてしまうことが多いんです。ビジネスとして対等な取引をすることで、正当に評価されるような社会にしていけたら。作家さんたちの強烈な個性を異彩として世に放つことで、障がいのイメージを変えていきたい」
PROFILE
松田文登 まつだ・ふみと
ヘラルボニー代表取締役副社長。大手ゼネコンで被災地再建に従事したのち独立し、知的障がいのあるアーティストが日本の職人とともにプロダクトを生み出すブランドMUKUを立ち上げる。2018年、双子の弟・崇弥と株式会社ヘラルボニーを設立。
●情報は、FRaU2021年8月号発売時点のものです。
Photo:Yuji Hachiya Text & Edit:Chihiro Kurimoto
Composition:林愛子