長崎・佐世保「ミナトマチファクトリー」通所者が描く、色鮮やかなアウトサイダー・アート
いわゆる「美術」の外にいて、創作し続ける人がいます。誰かの、何かのためでなく、沸き立つ表現。魂があふれ出るような心を揺さぶる作品と、そのつくり手たちを訪ねました。今回のスポットは、障がいをもつ人びとの就労継続を支援している長崎県佐世保市の福祉事業所「ミナトマチファクトリー」です。
アウトサイダー・アートって?
既存のアートに対し「アウトサイド」とされる、美術教育を受けていない人による、独自の芸術活動のこと。障がいや生きづらさを抱える人の作品でも知られるが、身近な日常で、刑務所で、あるいはどこかで人知れず、さまざまな表現が生まれている。独創的で自由で、これこそ創作の真髄と感じられるような、魂を燃やす作品たちだ。
Saori
2014年より通所。身近な画材として手にしたボールペンで絵を描くようになる。まず白い画用紙に枠を取り、その中を埋めるようにモチーフを描くのが特徴。単色の下絵に、お気に入りのカラーボールペンで色が塗り重ねられていくと、佐世保市の商店街も建物も、瑞々しくポップに輝き出す。
色づけは繊細で、限られた色数でさまざまな色彩を表現するために、色の違うボールペンの線を重ねる工夫も。緊張時に体に強いこわばりが出ることがあるが、それによる筆圧が作品の個性となっている。線の流れや陰影が顕著に出て、ボコボコになった原画は圧倒的。普段はシャイな彼女だが、動きはキビキビとして、近くの作業場まで猛ダッシュをすることも。本が好きで、図書館でみつけた絵画を写した作品も描く。
megumi
2015年、就労活動としてワードとエクセルを学ぶために通所を始めるが、作業に携わるなかで挑戦した絵で才能を発揮。職員が施設周辺で撮った外国人のいるバーや食べ物などの写真をベースに味のある線画を描き、それをパソコンに取り込んで、Illustratorのソフトで、ひらめきのままに色をつけていく。
ベーシックな色づけの他に、その色違い、さらに遊び心を加えて彩色した1枚と、ひとつの下絵から毎回3~4種類の作品が生まれる。その画面は、どれも色彩感覚にあふれている。島のおじさんの肖像に本人が着用していないピンクのパーカやサングラスを描いてみたり、吹き出しで面白いコメントをつけたり。もの静かで恥ずかしがり屋な性格からはうかがい知れぬ、ユニークな内面も覗かせる。
ミナトマチファクトリー
「自分の仕事をつくる」をテーマに、創作を仕事に変えるビジネスモデルを構築する福祉事業所。観光産業向けの企業と組んで、地元の長崎県・佐世保市をテーマに描いたイラストを布にプリントし、小物にして販売するなどの事業を展開。通所者に仕事を生み出している。縫製や印刷に携わる通所者も含めて約50名が利用。 www.for-all-product.com
●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。
Text & Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子