「サステナブルじゃなきゃ、ファッションじゃない!」の時代へ【中編】
これから私たちが選ぶ服には、サステナビリティの観点が外せません。それに応えるように、いまファッション界では技術革新とクリエイティビティが加速中。『WWDJAPAN』編集統括兼サステナビリティ・ディレクターの向千鶴さんがサステナブルファッションの潮流を解説します。
循環型へのシフトと
新たな価値づくり
以前、大きく報道された南アジアでの縫製工場の崩落事故。多くの従業員が死亡し、ファストファッションの問題が浮き彫りとなりました。ここから業界全体の意識が少し変わり始めます。変革が先行しているのは「H&M」「ZARA」「ユニクロ」といったグローバルSPA(製造小売業)企業。売って終わりの事業スタイルでなく回収して再利用までする循環型へのシフトが明確です。最後の責任もつくり手側が持つという動きが見られます。
一方、ラグジュアリーブランドも動きが早い。断トツはグローバル・ラグジュアリー・グループの「ケリング」ですね。2018年にカーボンニュートラルを実現した「グッチ」を核に、「サンローラン」「バレンシアガ」など。長年パリコレを取材してきて思うのですが、これまではインスパイアされたものを服で表現することが多かったのに対して、いまは社会の変化とともに新しい価値表現をブランド全体で試みているなと。メゾンが選出するディレクターやデザイナーもサステナビリティに配慮している人物が多く選ばれる傾向にある。ファッションそのものが、新しい価値を世の中に届けるための、わかりやすいツールになっているのだと思います。
ファッションは農業、
素材のイノベーションを
素材に関しては「代替」が大きなテーマになっています。いま洋服に使われる素材の6割がポリエステル、2割がコットン、1割がウール、残りは他素材。圧倒的にポリエステルの比重が高い。ポリエステルは石油由来なので、その比重をどう変えていくか、さまざまなイノベーションが起きています。いま注目しているのはキノコの菌糸を活用した人工マッシュルームレザー。複数のスタートアップ企業が開発しており、「ダブレット」も新しいレザーとしてコレクションを発表しています。
「ステラ マッカートニー」でも2022年にバッグが発売。これからは新素材の開発や見直しが求められていくでしょう。置き換えられるものは置き換えるべきだと思いますが、一方で牛革などのレザーは耐久性もあり、素材としてはよいもの。環境問題を考えたときにずっと長くつかえるのがいいか、素材自体に配慮するのがいいか、私自身もまだ答えは出せていません。
服、靴、バッグ、これらの原材料を考えると、コットンやウール、レザーなど自然界にあるものからつくられ、つくづくファッションも農業なんだと思います。すべて牧場や畑からくるもので農と密接につながっている。なので実際にトレーサビリティがしっかりしている食品業界を参考にしようという動きもあります。QRコードで生産者や産地が追える仕組みをファッション業界にとり入れることで、糸や生地、染色、縫製などの生産現場がクリアになっていくといいなと思います。
“らしさ”からの解放、
心と体はますます自由に
環境問題に対する変化と同時に、ジェンダーや人権問題もより注目されるようになりました。さまざまなことの“レス化”というのでしょうか。人権、性的指向、政治、障がいなど、決められた価値観のなかでマイノリティーが肩身の狭い思いをしていた状況が見直され、さまざまなことがボーダーレスになっています。これまではミューズ的アイコンを立て、あこがれをつくり出すこと、マネることがステータスとなる業界でしたので「みんな違って、みんないい」という考えにはなりにくかったのが正直なところ。それがようやく動き始めている感じがするのは、実際に8頭身モデルだけだったのが、さまざまな体型や人種のモデルが登場するようになってきているから。
ブランドでは、これもグッチがリードしている印象です。クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレの最初のショーは本当に衝撃的でした。多様性やジェンダーレス、文化の盗用などをテーマに既成概念を壊しています。
とくに、保守的なイタリアブランドで男性は男性らしく、女性は女性らしくを求められた常識を覆したことは大きかったですね。これからのファッションを考えると、そういった価値観や思考的な面でもさらに大きく変化していきそうな予感がします。
▼後編につづく
PROFILE
向千鶴 むこう・ちづる
『WWDJAPAN』編集統括兼サステナビリティ・ディレクター。2000年にINFASパブリケーションズ入社。記者として主にデザイナーズブランドの取材を担当。『ファッションニュース』編集長、『WWDジャパン』編集長などを経て21年4月から現職。
●情報は、FRaU2022年8月号発売時点のものです。
Text & Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子