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フードバンク先駆者「セカンドハーベスト」が目指す“食べることに困らない社会”
フードバンク先駆者「セカンドハーベスト」が目指す“食べることに困らない社会”
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フードバンク先駆者「セカンドハーベスト」が目指す“食べることに困らない社会”

食べることは、生きる基本。いま知っておきたい食の課題と、解決に向けた取り組みを学びましょう。今回は、フードバンクのパイオニアであるマクジルトン・チャールズさんにお話を伺いました。食が誰もに保障されるのが真に豊かな社会。貧困を防ぎ、コミュニティを育むために、食を届ける現場をレポートします。

捨てずに渡す。ただそれだけ
対等な関係で食を届ける

余剰食品の引き取りや配送をするのもボランティア

とある火曜日の正午。東京・浅草橋のビル前に小さなワンボックス車が到着した。車内にはベーグルや菓子パンなどの食品がぎっしり。すべて、都内の大手スーパーで廃棄予定だったものだ。

廃棄される予定だった食品。セカンドハーベスト・ジャパンでは年間250万食に相当する食品をレスキューしている

賞味期限は切れていない。まだ食べられるのに捨てられる食べもの。これらを、さまざまな理由で生活に困窮する人々に無償で届けているのが、日本初のフードバンク団体「セカンドハーベスト・ジャパン」だ。

セカンドハーベスト・ジャパンの浅草橋パントリー(食料配布所)。中央がマクジルトン・チャールズさん

代表は元米兵のマクジルトン・チャールズさん(写真中央)。アメリカで生まれたフードバンクというシステムを日本に広めた彼は、東日本大震災後いち早く現地入りし、被災者に食品を届けたことでニュースになったこともある。「すべての人に食べ物を」をモットーに、2002年から活動を続けてきた。

ボランティアが届いた食品を整理する

「誰もがいつでも、安心して生活できるための十分な食べものを入手できる。それが社会の基盤であり、何より大切だと考えています。支援が自立の妨げになると叫ぶ人もいるけれど、お腹が空いている状態では気力も湧かない。まともな精神状態も保てない。食べるということは、そのくらい生きる基本なんです。それこそ病院や交番のように、街のあちこちにフードパントリー(食料配布所)があるべき。日本には、そうした食のセーフティネットの意識が欠けていると思っています」

食品ロスの解決にも貢献

2021年10月現在、セカンドハーベスト・ジャパンがかかわるフードパントリーは東京都内に83ヵ所、神奈川県に13ヵ所、埼玉県に68ヵ所。それでも、2018年の時点でニューヨークには1100ヵ所、香港には160ヵ所あるというから、世界と比べるとまだまだ数は足りていない。

コロナ禍の期間中は対面時間を短縮するため、事前にスタッフが袋詰めしたものを手渡していた

取材した日は14時から配布がスタート。訪れる人はお年寄りから学生までさまざまだ。受けつけの際に本人確認書類などの提示を求めるが、収入を確認したり、家族構成を尋ねることはない。受け渡しのカウンターにはなごやかな空気が漂う。

主食である米やパンのほかに、果物や野菜などもバランスよくセットにして袋詰め

「余っているから分ける。ただそれだけですから」とチャールズさん。

すべての人にバランスのいい食を

「私たちが大切にしているのは、対等であること。企業に対しても、頭を下げて営業をするといったことはしていません。企業はこれまで、余った食品をお金を払って廃棄業者に委託して捨てていたわけですから、もらってもらうのはありがたい。だから受け取る人も、気軽に来てほしい。ここにある食料は社会全体でシェアすべきもの。気後れすることなく受け取ってほしいです」

パントリーには個人からの寄付も届く。なかには手紙が添えられているものも
農家から届いた玉ねぎ

日本の相対的貧困率は15.4%。東京都の人口1400万人に当てはめると、216万人が生活に困っていることになる。コロナ禍で仕事がなくなった人がたくさんいる。生活を切り詰めているひとり親世帯も依然として多い。「食べることにだけは困らない社会」が実現できれば、どれだけ多くの人が安心して生活できるだろう。

学生ボランティアもいる。手伝いの人員は常に募集している

「みなさんもご存知のとおり、日本の食品ロスは深刻です。東京五輪でもボランティアスタッフ用の弁当が大量廃棄されたことが問題となりました。私たちはオリンピックの東京開催が決まった2013年から、食品廃棄が出た場合の引き取りを提案し続けていました。それでも、あのような結果になってしまった。余っているものをお腹が空いている人に届けるというのは、シンプルなようでとても難しい。それでも20年前に活動を始めたときは3団体しかなかった協力企業や団体が、2021年には1967団体にまで増えました。寄付金やボランティアも年々多くなっている。まずは活動内容や存在意義を正しく知ってもらう。それが、フードバンクを日本に根づかせる第一歩になると信じています」

PROFILE

マクジルトン・チャールズ
1963年生まれ。91年に留学生として来日。大学卒業後、路上生活者の自助センター設立を目指し活動を始める。フードバンク・パイオニアとして、日本初のフードバンクとフードバンクネットワークを法人化。

セカンドハーベスト・ジャパン
2002年に設立された認定NPO法人。東京、神奈川、埼玉、沖縄を中心に活動。浅草橋パントリーでは週4回の食料配布を行っている。初回予約不要。2hj.org

●情報は、『FRaU SDGs MOOK FOOD』発売時点のものです(2021年10月)。
Photo:Kiyoko Eto , musubie Text & Edit:Yuka Uchida
Composition:林愛子

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