壱岐ゆかり「自然のあり方を教えてくれる本&映画」
SDGsの目標達成にはまだ課題がありますが、それでも前に進むしかなく、人間は意志を持ってこの星をかつての美しい地球に戻すべく、変えていく努力をしなければなりません。自ら自然のなかに身を置き、そこから何かを学べるのは、とても幸せなことです。けれど、本や映画を通して新しい考え方や感じ方を得ることだってできます。そんな体験をした「THE LITTLE SHOP OF FLOWERS」主宰の壱岐ゆかりさんに、大切なことを教えてくれた作品について聞きました。
便利すぎる東京の住環境を
破綻する前に見直したい
『虫眼とアニ眼』は養老孟司さんと宮崎駿さん、自然観や人間観を同じくするふたりの対談集。なかでも印象深いのが巻頭に掲載されているイラスト。描かれるのは、宮崎さんが「いいな」と思うコミュニティの形。自然と一体化した住居、子どもからおじいちゃんまでが一緒に暮らす社会です。
私はコロナ禍の間も、毎日花を配達していました。それを通して知ったのは、東京の住環境。
窓の開かない高層マンション、何をそこまで恐れているのかと思うほどの過剰なセキュリティ。建てては壊されていく住宅。コロナ感染への不安のなか、花が届くことだけを救いに、ひとり暮らしている方とも出会いました。優しくて、自然に近い状態の住環境をつくることは、生きやすいには欠かせない。この本に描かれた住環境は、まさに理想でした。命を終える人、枯れていく植物、朽ちていく家。それらを美しいと思える暮らしや生き方をするにはどうしたらいいのか、考え続けています。
『アンという名の少女』は小説『赤毛のアン』を映像化したドラマ。アンの、ルールに縛られず、自分の感性でありのまま世界と接する姿は、これからの生き方に大きなヒントをくれます。
アンの養母マリラも素敵で、自分でパンを焼き、チーズをつくり、育てた植物をドライハーブにする。物質的には乏しくても豊かな暮らしができることを教えてくれる存在で、彼女らのように、生きていることを実感できるような日々を送るにはどうしたらいいか。これに関しても、ずっと考えています。
『アンという名の少女』
小説『赤毛のアン』に基づくテレビドラマシリーズ。天性の想像力と情熱が取り柄の少女アンが、美しい自然のなかで成長していく姿を描く。カナダCBCとNetflixによる共同制作。Netflixで視聴可能。
『虫眼とアニ眼』
養老孟司、宮崎駿/著
「虫眼」を持つ養老孟司と「アニメ(眼)の人」宮崎駿による対談集。宮崎作品を通して人間のことを考え、若者や子どもへの思いを語る。新潮文庫/¥605
PROFILE
壱岐ゆかり いき・ゆかり
2010年、THE LITTLE SHOP OF FLOWERSをスタート。装花、ワークショップ、スタイリングなど、「人の気持ちを花に翻訳する花屋」として活動。廃棄花を染料にし、花の持つ色素と効能を暮らしのギフトに落とし込む提案も行う。植物や花の活力を信じ、人生のさまざまな場面でそっと寄り添える存在になるべく奮闘中。
●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Illustration:Amigos Koike Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子