道具は必要最低限!「足るを知る」日帰りキャンプのススメ
私たちのふだんの行動軸をベースに、未来を変えるアクションをはじめませんか? 毎日の暮らしのなかでできることから新たな世界の体験まで、できそうなこと、やりたいことから探してみましょう。今回は、料理家の山戸ユカさんと工作家の清水麻由子さんによる、キャンプの楽しみ方をご紹介します。
便利すぎないからいい
謙虚さをくれるキャンプ
昨今、人気が高まっているキャンプ。やってみたいけど、道具を揃えるのが大変そうだなと二の足を踏んでいる人も多いかもしれない。でも、じつはそんなことはない。料理家の山戸ユカさんと工作家の清水麻由子さんのキャンプは、ものすごく“小さい”。
持ち物は、折り畳みのテーブルと椅子、小さな焚き火台(直火OKの場所なら不要)、調理道具は日頃つかっているホットサンドメーカーやスキレットなどで、料理もサッとつくれるものばかりだ。
「何つくる?」「とりあえず卵とアスパラを焼こうか」「あそこに、こごみが生えていたから、それも入れよう」。
メニューはたいていその場で決める。キャンプ場近くの直売所などで旬の食材を買い、火をおこしながら何をつくるか考える。その過程もまた楽しいのだ。
「キャンプの面白さは、限られた道具で、日常より不便な環境のなか、いかに『おいしく』『心地よく』できるか工夫すること」と山戸さん。いっぽう清水さんは、「キャンプは手軽に自然のなかに身を置く体験ができる遊び。寒いときに太陽が出ると暖かい、ありがたいなと思うし、夜、暗くて怖いなとか、虫がいっぱいいる(涙)なんてこともありますが、全部ひっくるめて自然を感じられる。そういう体験を重ねると、ふだんの生活がいかに恵まれているかを実感できますし、同時に人ってとるに足らない存在だなとも感じます。だからこそ、もっと謙虚に日々を過ごそうと思うんです」
便利すぎない小さなキャンプは、人間中心の暮らしをかえりみる機会をくれる。知恵と工夫でもって賢く、足るを知る生き方を教えてくれる、先生のような存在なのかもしれない。
「たとえば水も、家では水道からじゃんじゃん出ますけど、キャンプでは近くの水場で汲んで、それを自分で運んできます。苦労して得た水だから、できるだけ節約しようと思うわけです。本当は水道から出る水だって無限じゃない。キャンプをすると、そんな当たり前のことに気がつきます」とふたり。長年キャンプに親しむうち、日常生活でも資源やエネルギーを自然と大切にするようになった。
「何よりキャンプをしていると気持ちがいいし、楽しい。こんな豊かな自然のなかで過ごせる時間がなくなってしまったらすごく困るし悲しいので、プラスチックや二酸化炭素、エネルギーなど、いま懸念されているあらゆる環境問題について、真剣に考えています。それは誰かのためじゃなくて、自分のためだから」と、口を揃えてきっぱりと言う。
「地球を守りましょう」というスローガンは、どこか他人ごとに聞こえてしまう。でもそれをお気に入りの公園やキャンプ場、山や川に置き換えてみたらどうだろう。きっと傍観者ではいられない。至れりつくせりのキャンプも楽しいけれど、ぜひ一度、必要最低限の道具だけで、自然に入ってみてほしい。そこにはきっと、大きな発見があるはずだから。
PROFILE
山戸ユカ やまと・ゆか
料理家。山梨県北杜市で夫と自然派レストラン「DILL eat, life.」を営む。著書に『1バーナークッキング』(大泉書店)など。
清水麻由子 しみず・まゆこ
工作家。木や葉など自然のものを使った木工やコラージュ作品の制作を行う。「The Small Twist Trailfoods」としても活動。
●情報は、FRaU2022年8月号発売時点のものです。
Photo:Tetsuya Ito Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子