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“菌の声を聴く”パン屋さんが選ぶ「自然のあり方を教えてくれる本&映画」
“菌の声を聴く”パン屋さんが選ぶ「自然のあり方を教えてくれる本&映画」
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“菌の声を聴く”パン屋さんが選ぶ「自然のあり方を教えてくれる本&映画」

SDGsの目標達成には課題がありますが、それでも前に進むしかなく、人間は意志を持ってこの星をかつての美しい地球に戻すべく、変えていく努力をしなければなりません。自ら自然に身を置き、そこから何かを学べるのは、とても幸せなことです。けれど、本や映画を通して、新しい考え方や感じ方を得ることだってできます。そんな体験をした千葉県のパン屋さん「タルマーリー」店主・渡邉格さんに、大切なことを教えてくれた作品について伺いました。

自然がもたらす豊かな食を分かち合う
人情ある社会は自然環境にも優しい

フーテンの寅さんでおなじみ、映画『男はつらいよ』シリーズによく登場する「矢切の渡し」。千葉県の松戸市下矢切と東京都の葛飾区柴又を結ぶ、江戸川の渡し船です。私は矢切に近い大学で学生時代を過ごし、よく授業をサボっては矢切の渡しを見てボーッとしていました。そしてこの場所はかつてどんな風景だったのか知りたくて観はじめたのが『男はつらいよ』でした。

昔の風景と、寅さんのテキヤ仲間たちが緩やかに生きられる社会環境に感動しました。富める人も貧しい人も分け隔てなくドタバタやって、そのカオスぶりが寅さんシリーズの醍醐味です。私は、その要因のひとつが、自然と、それがもたらしてくれる食の豊かさだと思うのです。経済的に貧しくても食べるものは豊富にあって、それを分かち合えた。だからこそあんなに豊かで、広がりのある人情が生まれるのではないだろうか。そして人情が生まれるような土壌は自然環境にも優しかったのだと思うようになりました。

『人類とカビの歴史』では自然界であまり見ることのないカビが、合成洗剤しかつかわない洗濯機で大量に発見されると述べられています。人間活動によって特定の菌たちがわいてくるさまは、私たちがつくり出してきた大量生産システムに対して、「自然環境を破壊するとこうなるよ」という菌からの警告とも思えます。パンデミックという経験を次の時代にどう生かすのか。いま、まさに問われているように思います。

『男はつらいよ』

俳優・渥美清さん(故人)が「フーテンの寅さん」を演じた国民的ヒット作。全国放浪の旅に出ている寅さんが、気まぐれに故郷の東京・柴又に帰ってきては騒動を起こす人情物語。山田洋次監督。1969年に第1作公開。全50作品。

『人類とカビの歴史 闘いと共生と』 
浜田信夫/著

人類に恩恵も害も与えるカビとは何なのか? その作用や、人とのかかわりの歴史を紐解く。朝日新聞出版/¥1078(電子版)

PROFILE

渡邉格 わたなべ・いたる
1971年、東京都生まれ。2008年、妻の麻里子と千葉県いすみ市にパン屋「タルマーリー」を開業。自家製酵母と国産小麦だけで発酵させるパンづくりをはじめる。現在は鳥取県智頭町に移転し、自家採取した天然麹菌など、野生の菌だけで発酵させるパンやクラフトビール製造。著書『菌の声を聴け』(ミシマ社)が発売中。

●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Illustration:Amigos Koike Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子

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