写真家・野川かさね「自然のあり方を教えてくれる本」
SDGsの目標達成にはまだ課題がありますが、それでも前に進むしかなく、人間はこの星をかつての美しい地球に戻すべく、変えていく努力をしなければなりません。自ら自然に身を置き、そこから何かを学べるのは、とても幸せなことです。けれど、本や映画を通して、新しい考え方や感じ方を得ることだってできます。そんな体験をした写真家の野川かさねさんに、大切なことを教えてくれた作品について伺いました。
人間の都合だけを優先しない
自然に逆らわない生き方
私は10年以上、山をテーマに写真を撮影しています。山を歩くと子どもの頃、自然に持っていた季節の移ろいを感じる感性、自然を見る眼みたいなものが、再びパッと開く瞬間があります。それを繰り返していると、街で暮らしているときにも自然のリズムというものを感じられるようになって、素敵なことだなと思いつつも、都市での生活がいかにそれとかけ離れているかも実感するようになりました。
『土を喰う日々』は、かつて京都の禅寺で小僧として修行をしていた著者が、その体験を通して料理する日々について綴ったエッセイ。月ごとにどんな食材をどんなふうに料理したかが紹介されているのですが、面白いのは、食材が豊かな月があったり、逆にまったくなくて、保存食だけで食べつなぐ月があったりすること。
考えてみたら当然のことで、いまの、どんな季節にでも豊富な食材を得られる生活は「人間の欲」に合わせた社会です。それを完全に手放すことはできませんが、「これを買うとはどういうことか?」を常に意識することはできるはず。そういう感覚を教えてくれた一冊です。
『動いている庭』はフランス人庭師による本。庭は本来、人間の都合によって自然をデザインするものですが、彼が目指すのは自然に逆らわない庭づくり。植物は、自分が生きやすい方向にしか向かわない。その行く先を見ることこそが歓びであり、本当の美しさなのだという著者の考え方に共感し、そんな場所が世界中にできたらいいなと夢想しています。
『土を喰う日々』
水上勉/著
禅寺で精進料理のつくり方を教わった著者。その体験をもとに、育てた季節の野菜をつかって、さまざまな料理を工夫しながらつくるクッキングエッセイ。新潮文庫/¥605
『動いている庭』
ジル・クレマン/著 山内朋樹/訳
できるだけあわせて、なるべく逆らわない。現代造園の世界に新風を呼んだ庭師の哲学が詰まった書。みすず書房/¥5280
PROFILE
野川かさね のがわ・かさね
1977年、神奈川県生まれ。山や自然をテーマに作品を発表する。著書に『山と写真』(実業之日本社)、共著に『山と山小屋』(平凡社)、『山小屋の灯』(山と溪谷社)など。主な作品集に『with THE MOUNTAIN』(wood / water records)などがある。クリエイティブユニット「kvina」の一員としても活動する。
●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Illustration:Amigos Koike Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子