「動くアロマラボ」、全国を巡って香りを抽出中!
まとうだけで気分がアガったり、ふとした記憶が蘇ってきたりと、さまざまな力をもつ香り。国産の植物を使った天然エッセンシャルオイル販売などを手がける「アットアロマ」は、商業施設やホテルなど空間の香りの演出もしています。2022年9月上旬、東京・江東区の有明ガーデンで開催された「有明まつり2022」。同社による天然アロマの蒸留イベントが行われると聞きつけ、さっそく体験してきました。
日本に1台しかない「モバイルアロマラボ」
アットアロマ所有の、日本に1台しかない蒸留装置を搭載したトラック「モバイルアロマラボ」が、江東区恒例のイベント、有明まつり2022に登場。静岡県裾野市のヒノキを使用してのエッセンシャルオイルの蒸留、抽出デモンストレーションを行った。
アットアロマの広報・森 満梨絵さんが語る。
「一般の方は、ボトルに詰められたエッセンシャルオイルは目にしても、その製造過程は、あまりご存じありません。モバイルアロマラボをつかって、みなさんの目の前で蒸留し、エッセンシャルオイルがどのようにつくられるのかを見ていただければ、オイルの希少性も理解いただけるのではないでしょうか」
エッセンシャルオイルは、植物の花や葉、果皮を蒸留したり、絞ったりすることで、香り成分(エッセンス)を抽出したもの。自然由来の植物そのものの恵みがギュッと詰まっている。
モバイルアロマラボは年に5回ほど、さまざまな植物や特産物の産地を訪れている。それぞれの地で、柑橘類の果肉をジュースとして絞ったあとに残る果皮や間伐材などの未利用資源を活用し、天然のエッセンシャルオイルをつくり出しているのだ。
2021年には、高知県宿毛市の特産物である柑橘「高知直七」、東京都の「檜原村ヒノキ」の産地を訪れ、生産者たちの目の前で精油の蒸留、抽出を行った。のちに、これらの香りのエッセンシャルオイルを数量限定で製造、販売もしている。
同社はもともと、製材所で建築用の角材に加工したときに出る削りカス(端材)などを使用した製品を扱ってきた。端材は山の土に埋めて肥料にするのが一般的だが、エッセンシャルオイルの製造に活用すれば、すべてをムダにしなくていいうえ、生産者の収入にもなる。
取れるオイルは原料ヒノキチップのたった1/1000!
さて、話を冒頭に戻そう。有明でのイベント時にエッセンシャルオイルの原料となったのは、静岡県裾野市のヒノキ。特有のさわやかさに加え、やわらかな甘い香りが感じられるヒノキだ。同じヒノキでも香りは産地により微妙に異なる。たとえば同社が限定販売しているエッセンシャルオイル「吉野檜」は、心がすっと落ち着くような、静けさを感じる香り。いっぽう台湾など海外のヒノキは、檜風呂にも使われれ、清涼感のある香りが特徴だ。
「モバイルアロマラボの蒸留器に入れられる原料は約50kg。素材によってもエッセンシャルオイルが取れる収油率は異なりますが、このヒノキの場合は50ml取れるかどうか。およそ0.1%と、比較的少ないほうです」(前出・森さん、以下同)
ラボのスタッフによると、「木部の樹脂に入ったアロマ成分は粒子が重いため、抽出が難しい」という。季節によっても取れる量は異なる。夏場は木が水分を多く含んでいるためオイルを取りにくく、冬場は水分が抜けている分だけオイルの量が多くなる傾向があるそうだ。
モバイルアロマラボの仕組みは、蒸留器内の原料に水蒸気を送り、精油成分を気化させ、その蒸気を冷却器に通すことで冷却し、油水分離器で油と水の比重の差を利用して分離させるというもの。
原料を入れてからおよそ30分程度で、油水分離器に、蒸留したての新鮮なエッセンシャルオイルと液化された水分が出てくる。周囲にはヒノキのさわやかな香りがただよい、木材からエッセンシャルオイルが生まれるまでの過程をつぶさに見られる。来場者たちは、ラボのスタッフによるていねいな説明に興味津々(きょうみしんしん)で耳を傾け、楽しそうに蒸留後のヒノキを覗き込んでいた。
筆者も、アロマオイルやエッセンシャルオイルが植物由来であることは知っていたが、実際に目の前で製造されるさまを見て、オイルに自然の恵みが凝縮されているということをはじめて実感した。香りへの関心も高まり、非常に楽しい経験ができたことに感謝したい。