“気持ちよい美しさ”の歴史を紐解く、サステナブルビューティヒストリー
美容業界においてトレンドとなっているのは、クリーンビューティ、エシカルビューティといったサステナブルな概念。これらの概念が浸透するまでには、たくさんのブランドや人の影響がありました。あらためてその変遷をたどってみると、社会情勢とのつながりも見えてきます。そして今後、サステナブルビューティが向かう先とは? 美容業界の動向を見守りつづけてきたビューティエディターの安倍佐和子さんと、サステナブルビューティヒストリーを紐解いてみました。
1980年頃~
欧米よりオーガニックコスメが日本に上陸
既成概念への反発から、世界中でカウンターカルチャーが席巻。精神的な豊かさや自然回帰が求められるようになるなかで、日本にもエコロジーやオーガニックという概念が浸透していく。そしてオーガニックコスメのパイオニアといえるブランドが次々と上陸。1976年には、スイスで1921年に創業したヴェレダが、1985年にはイギリスからニールズヤードが、1997年にはオーストラリアからジュリークが上陸した。
1990年代
アメリカにもオーガニックコスメのブームが
オーガニックコスメの先進国はドイツ。遅れをとっていたアメリカも、90年代に入ると東海岸のモード界から波が起こる。1994年にはジョン・マスターがニューヨークのソーホーに世界初の「クリーンエアサロン」をオープンし、「ジョンマスターオーガニック」をスタート。
1990年代後半
ホリスティック美容が話題に
ホリスティックとは、1920年代から使われはじめた、全体的な調和や共生、循環を表す哲学用語。その考え方を医療に生かし、自然治癒力を引き出して高めることを基本とするホリスティック医療(統合医療)を提唱した第一人者が、アメリカの医学博士であり、薬用植物の世界的権威であるアンドルー・トーマス・ワイル博士。美容にもその概念が取り入れられ、見た目だけでなく内側からも美しさを引き出した、心身ともに健康的な美が注目されるように。2006年には、博士とコスメブランドが共同展開するスキンケアブランドも発売され、人気を博した。
2000年頃
動物由来成分が敬遠されるように
かつて、美肌効果が高いといわれたプラセンタは人気の原料だったが、BSE(牛海綿状脳症)の発生以来、問題視されるように。現在は厳しい基準が設けられたうえで使用されているが、全体的に動物由来成分の使用を控える動きも生まれ、代わりとなる植物由来成分の開発が進んだ。石油由来成分や動物由来成分と同等のエビデンスも取れるようになり、それらや合成成分の代替としても活用されている。同時に動物実験をしない=クルエルティフリーなブランドも増えてきた。
2004年
コスメキッチン代官山本店がオープン
当初は化粧品を含むバラエティショップとしてオープン。当時の店長の発案により、オーガニックビューティセレクトをテーマに、コスメからアロマオイルやハーブティー、洗剤まで幅広くラインアップするように。ナチュラル&オーガニックのコスメブランドが一堂に会すショップの誕生は、エポックメイキングなできごとだった。ストイックでもなく、親しみやすい雰囲気のおかげで、ナチュラル&オーガニックコスメが多くの人にとって身近な存在に。
2009年
個性を引き出すブランドTHREEが登場
ブランドネームは、「異なる2つの概念からそれぞれのポジティブな要素を持ち合わせた3つ目の概念を生み出す」という意味をもつ数字の3に由来。既存の価値観に自らを当てはめるのではなく、自由な発想で新しい価値観と概念を生み出そうというコンセプトは、SDGsなコスメブランドとしての先駆けといえる。年齢や性別を超えたすべての人のためのベーシックスキンケアラインのほか、「人間は誰もがすでに美しい」という考えのもとに、人が本来持っている魅力を引き出すメイクアップアイテムなどが揃う。
2012年頃~
バイオテクノロジーが格段に進化
再生医療の発展とともに、美容業界でも培養技術が注目されるようになった。採取した植物を培養して製品に使用できるため、最小限の原料から大量生産できる。保護対象となっている稀少な植物を収穫する必要もなくなり、自然環境の保全に貢献できるという利点も。
2015年頃
自然派コスメは成熟期に突入
原料がオーガニックやエシカルであるだけでなく、容器のリサイクルや環境に負荷が少ないパッケージを使用していたり、生産者・製造者などの労働環境に配慮していたり、途上国の支援や障害者雇用に貢献していたり、ジェンダーレスなコンセプトであったり、製造や運搬時のCO2排出を抑えていたり。そんなサステナブルなコスメブランドが増え、市場は成長を続けている。そのいっぽうで、製品の90%でも1%でもオーガニック成分を使っていれば、オーガニックな製品づくりに取り組んでいるブランドとして横並びになってしまうという課題も浮上している。
2021年
“見せるため”から“自分のため”の美へ
これまで美容は、社会的なマナーであったり、異性の目を惹くためであったりと、“見せるため”のものという面が大きかった。ところがサステナブルなコスメを使うことの心地よさや、社会貢献に参加できる喜びを知る人が増えてきたことで、“自分のため”と考える意識が芽生えてきたよう。新型コロナウイルスの流行により、その波は加速。「自分を慈しみ認めることが、人や社会にも役に立ちたいと思うことにつながり、自分が心地よく生きる環境のために、地球を守ろうと思う」。そんな価値観の変化とともに、多様性への意識も高まっていくなかで、国内大手ブランドも続々とSDGsの達成にむけたプランを策定。環境のために、多様性が尊重される社会のために、具体的なコミットメントを推進しはじめている。
PROFILE
安倍佐和子
化粧品会社、出版社勤務を経て独立。現在は女性誌、広告、講演などで幅広く活躍。認定ホメオパス、フィトテラピーアドバイザーの資格を有し、メイクアップからスキンケアサイエンス、ホリスティック系まで得意分野は幅広い。著書に『人と比べない美人力の磨き方』(講談社)がある。
Instagram:abesawakobeauty
Twitter:@abesawako
●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Illustration:Yachiyo Katsuyama Text & Edit:Shiori Fujii
Composition:林愛子