写真家・梶田亮太「美しいフローズンバブルがくれた“気づき”」
自然破壊や環境問題など、世界各地で起きている出来事を独自の視点で捉える作家たち。ニュース映像や報道写真とは一線を画する、アーティストのメッセージをフィーチャーします。
アラスカの凍った湖面に現れる
メタンガス、CO2由来の幾何学模様
アメリカ・アラスカ州にある北極圏に近い街、フェアバンクスを拠点にする梶田亮太さん。日本の大学を卒業し、映像関係の仕事に携わっていたとき、アラスカ先住民の村を旅し、その自然と人々の営みに魅せられた。それをキッカケに現地の大学、大学院でジャーナリズムや映像、写真を学び、以来、アラスカで作家活動を行っている。
彼の写真「Ice Formation」シリーズは、『ナショナル・ジオグラフィック』誌にも掲載された代表作。アラスカに厳しい冬が訪れる直前、限られた期間にだけ湖や沼、池に現れる「フローズンバブル」を捉えたモノクロ作品群だ。
「冬、散歩で訪れた沼で見つけたのが最初です。凍った沼に、直径30cmから1mくらいの模様みたいなものがあって、氷の中に閉じ込められた何かの結晶のようでした。すごく美しくて、不思議で、他の池でも探してみたら、それぞれ造形も大きさも違って、ほかにひとつとして同じものがない。自分だけの宝物を見つけたように興奮し、以来やみつきになって10年以上撮り続けています」
フローズンバブルは、水底のバクテリアが出すメタンガスや二酸化炭素の泡が凍った水面の下で行き場を失い、徐々に凍結したもの。一般的にメタンガスは地球温暖化を引き起こすものと考えられ、警鐘を鳴らす作品であるとの声もあるが、梶田さんは違った形で環境について気づきを得たという。
「フローズンバブルが現れるのは湖や池が結氷するほど気温が下がる時期ですが、雪が積もると隠れてしまうので、気温は低いが雪は積もらないという限定的な条件が必要。年によって現れる時期は前後し、以前より自発的に気温や季節の変化に気を配るようになりました。自分の暮らしている街の気象や環境の変化に敏感になるにつれ、徐々に世界的な気候変動についても考えを巡らせるようになりました」
近年、フェアバンクスの冬も以前ほど冷え込まなくなったと梶田さん。
「かつてはマイナス40℃も当たり前でしたが、最近はそんなに寒くならない。気候変動の影響かどうかは明言できませんが、少なくとも変化は肌で感じます。作品を通して、身近な環境の変化を考えるきっかけを得てもらえたら、とてもうれしいですね」
PROFILE
梶田亮太 かじた・りょうた
岐阜県生まれ。図書館情報大学卒業後、東京の映像会社勤務を経て渡米。州立アラスカ大学フェアバンクス校で写真を学ぶ。ryotakajita.com
●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Coordination:Yumiko Urae Text:Yuriko Kobayashi , Chizuru Atsuta Edit:Chizuru Atsuta