「使い捨て」を許さない事業モデルを! ユニクロのサステナブルな挑戦
2021年12月、ユニクロを運営するファーストリテイリングは、持続可能なビジネスモデル構築に向けたビジョンとアクションプランを発表した。狙いは、「サステナビリティ」と「ビジネスの成長」を両立するビジネスモデルへの移行。持続可能なサプライチェーンをつくり、衣服を長く生かし続け、その価値を循環させていく。2050年までにカーボンニュートラルを実現させることをゴールに掲げる。
あらゆるシーンにも活用できる万能性と、値段以上の上質感……世代問わず愛され続ける国民的ブランドでありながら、循環型ビジネスモデルを叶えるサステナビリティ企業へと変わろうとしつつあるユニクロ。同社でサステナビリティの取り組みに20年以上携わるファーストリテイリング、コーポレート広報部長シェルバ英子さんに、「ユニクロが考えるサステナビリティ」「アパレル産業としての責任」について伺いました。
資源をムダにしないビジネスモデルを追求
ユニクロのものづくりの根幹にあるのは、「ライフウェア(LifeWear)」というキーワードだ。「あらゆる人が普段着として長く愛用できるような服づくりを目指している」とシェルバさんは言う。
ユニクロでは、2006年より進めてきた「全商品リサイクル活動」を、2019年さらに推進。服を服のまま再利用することにくわえ、新たに回収した服を生まれ変わらせ、新しい商品として再びお客さまに届ける「RE.UNIQLO(リ・ユニクロ)」をスタート。回収した衣服のうちリユースできるものは、難民支援としてアジアやアフリカなどの地域に届け、リユースが難しいものは、固形燃料、断熱材、保温材、車の部品等に利用されている。日本は、他国と比較して回収する衣服の状態がよく、リユースとして活用することの方が多いそうだ。
また2017年からは情報製造小売業の実現に向けた全社改革を目的に「有明プロジェクト」を推進している。
「有明プロジェクトでは、お客さまから寄せられた意見を分析し、商品の細部まで改良を重ねるとともに、生産数量の予想精度の改善や物流改革などにより、お客さまが求める本当に良い商品を必要な量だけ、さらに最適なタイミングでお届けし、生産や販売におけるムダをなくす取り組みを進めています。どうしても在庫として残った商品は、値下げや翌シーズン以降へ持ち越すなどし、最終的にすべて売り切り、廃棄はしない方針です。シンプルですが、これを徹底しているのがユニクロなんです」(シェルバ英子さん、以下同)
「ユニクロはファストファッションだ」といわれることもあるが、そうではなく、流行を追わずに究極の普段着であるライフウェアをつくっていると強調する。
ユニクロの服を長く着つづけてもらうために
このような独自施策を通して、アパレル産業における大量廃棄や大気汚染などの課題解決を目指すユニクロは、2021年12月、持続可能なビジネスモデル構築に向けたビジョンとアクションプランを発表した。ここには、グローバルなアパレルブランドとして、ユニクロがどうありたいかという意思が表れている。
「図の左半分がこれまでのライフウェアで、お客様を起点にして持続可能な方法で商品を企画、製作、販売するところまでを示しています。ここに、図右側のライフウェアを生かし続けるリユースやリサイクルをつなげ、循環型ビジネスモデルをつくろうというのが、新たなプランです」
回収した衣服を再び衣服として活用するリサイクル、リユースとして、2019年からダウンジャケットのダウンとフェザーの再利用を開始している。ユニクロと戦略的パートナーシップを締結する東レが独自に開発したシステムによって、裁断したダウンジャケットからダウンとフェザーだけを効率的に取り出すことが可能に。近年、限られた天然資源を有効に活用するリサイクル施策だ。
古着を新たな衣服に生まれ変わらせる技術は世界中で研究開発されており、たとえばH&Mではファッション小売業としてはじめて、2020年10月に、古着を分解して新しい衣服に組み立てるリサイクル施設「Looop」をスウェーデンの店舗内にオープンさせた。
また、フィンランドのInfinited Fiber Company(インフィニテッド・ファイバー・カンパニー)は、衣服廃棄物、ダンボール、紙類、稲や小麦のかすといった複数の廃棄物から、まったく新しい繊維「Infinna(インフィナ)」をつくる特許技術を生み出した。この技術はアディダスやパタゴニアといった有名ブランドにも提供されている。
カナダの「CBC News」の報道によれば、新しい繊維としてリサイクルされる衣類は、全世界でもわずか1%だけだという。世界中に出回る衣類の大部分は2種類以上の異なる繊維でできた繊維混合物で、リサイクルするには膨大な費用と時間を要してしまうからだ。
そんななか、EUは2025年までに高度レベルでの繊維廃棄物の分別を実現するとしている。なかでもフランスでは、欧州のどこより早い2022年1月から、売れ残った衣服の廃棄を禁止する「衣服廃棄禁止令」を施行した。売れ残りの衣服を焼却や埋め立てによって廃棄するのを禁じ、寄付やリサイクルするよう事業者に義務づけたのだ。フィンランドでは、2023年までに衣服廃棄物の分別収集を実施するという。
「ヨーロッパなどの先進国に比べて、日本では衣服のリサイクルが遅れているのは事実です。これを進めるには、リサイクルの仕組みを整え、技術開発への支援が必要でしょう。国が主導して法律を変えていくことも大事ですし、リサイクル技術を研究する企業への投資も求められると思います」
リサイクルと同時にユニクロが注力するのは、「衣服を長く着つづけてもらうための提案」だとシェルバさんはつけ加える。
「当社では現在ドイツ、イギリス、アメリカなどで、ほつれたり、破れたりした衣服を店内で補修するリペアサービスを試験的に展開しています。補修やアップサイクルを一般化させ、長く着続ける価値を提供したい」
ごみ拾いとスポーツの融合「スポGOMI」
ユニクロでは新たなサステナビリティのキャンペーンとして、「JOIN:THE POWER OF CLOTHING(ジョイン・ザ・パワー・オブ・クロージング)」を展開している。リサイクル素材から生まれた商品や、仕上げ加工時の水の使用量を削減したジーンズ(ブルーサイクルジーンズ)ほか対象商品を購入すると、その利益から100万米ドル(約1億3000万円)が、ファーストリテイリングから日本財団に寄付され、海洋ごみを減らす活動に役立てられるという。
「『ジョイン〜』の名のとおり、お客さま参加型のキャンペーンです。お客さま自身が海洋ごみ問題に触れることで、課題について広く普及し、地球をよりよくする支援につながれば」
同じく消費者参加型のプロジェクトとして、ごみ拾いとスポーツを融合させた「スポ GOMI×UNIQLO」も2021年から実施している。チーム制で市街地のごみ拾いをスポーツ感覚で行い、制限時間内に拾ったごみの量、種類でポイントを競う。
昨年は京都市と香川県高松市の2ヵ所で開催、約43kgのごみが回収された。今年の6月、渋谷で実施されたスポGOMIには、親子連れ、学生、社会人など幅広い層の参加者が170名ほど集まったそうだ。8月末までに全国11拠点で開催される予定だ。
「つい先日は浅草で、ユニクロのグローバルブランドアンバサダーを務めるプロ車いすテニスプレーヤー、国枝慎吾さんをゲストに招いて開催しました。暑いなか、たくさんの方に参加いただき、驚きと同時に社会貢献活動への関心の高まりを感じています。引き続き、こうしたサステナビリティ施策を継続していきたいです」
取材・文:小林香織 編集:大森奈奈 写真提供:Fast Retailing