知っているようで知らない!? 「チョコレートができるまで」を巻き戻し再生
みんな大好きなチョコレート。私たちにとても身近な存在ですが、「いったい何から、どういう工程を経てできているのか」は意外に知られていないのではないでしょうか。実は原料の多くは、遠く赤道周辺の国々からやってきます。サステナブルなものづくりにも深い配慮がなされた「チョコレートのできるまで」を見ていくことにしましょう!
チョコレート製造はなぜ「食品の重工業」なのか
とろける口どけ、うっとりするような香り、絶妙な苦みと甘みのハーモニーで、長きにわたって愛されているチョコレート。その製造業は、生産過程で何台もの巨大な機械がつかわれていることから、「食品の重工業」と呼ばれている。原料であるカカオ豆から、どうやってチョコレートができるのか。その工程を動画を巻き戻すように、完成品の「板チョコ」からカカオ豆まで、さかのぼって見てみよう。
いわゆる「板チョコ」のように成形される前、完成直前のチョコレートは、「クーリングトンネル」内のベルトコンベアにのせられ、ゆっくりと冷やし固められている。ドロドロにとけた状態のチョコレートが型に流し込まれ(=充填)、こうして冷却されるのだ。
充填→冷却前には、「テンパリング」と呼ばれる温度調節が行われている。おいしいチョコレートをつくるには、絶妙な温度でココアバターを安定した「結晶」にする工程が超重要だからだ。
テンパリングマシンをつかって50~55℃でチョコレートをとかしたあと、27~29℃まで冷やし、再び31~32℃まで温めててから冷やし固める。テンパリングをおろそかにすると、表が白くなったり、斑状のものが浮き小る「ブルーム現現(=ブルーミング)」が起こり、風味が損なわれて口どけが悪くなってしまうのだ。
テンパリングの前には、チョコレート製造独特の作業「コンチング」によって、チョコレート生地がなめらかになるまで練り上げられる。「コンチェ」という専用の機械をつかい、長時間練ることで、生地を硬い粘土状から、柔らかい粘土状にまで仕上げていくのだ。練るほどにカカオの酸味がやわらぐため、原料のカカオ豆の個性や「つくりたい味わい」によって、練り具合や時間も調節されるという。
コンチングの前に行われるのは、カカオマスと砂糖、ココアバター、ミルク(粉乳)などを「混合」してチョコレート生地をつくる作業だ。このときの配合が味の決め手になり、さまざまなテイストのチョコレートがつくられていく。
私たちの舌は、20ミクロン以下の粒子になったものにはザラつきを感じないといわれている。つまり、ザラつかないなめらかなチョコレートをつくるためには、混合の際に、チョコレート生地の粒子を「レファイナー」で20ミクロン以下に微細化する必要がある。ただし、個性的な食感を出すため、あえて粗めに微細化するショコラティエもいる。このあたりは、職人たちの腕の見せどころだといえるだろう。
混合→コンチングの前に行われるのが、カカオ豆を細かく砕いてシェル(種皮)を取り除く「分離」と、それをすりつぶす「磨砕」。この過程で、カカオ豆がペースト状の「カカオマス」になるのだ。カカオマスはチョコレートのほか、ココアの原料にもなる。
磨砕の前には、「ロースト」と呼ばれる作業がある。高温で香ばしくローストするのか、低音でじっくり素材の味を引き出すのか。豆の味を生かすも殺すも、この過程次第なのだそうだ。
このローストによって生じる香気成分はなんと1000種類以上。理想のアロマを実現すべく、温度と時間がきわめて緻密に設定、管理される。
カカオ豆の故郷で行われる「発酵」「乾燥」が重要
完成品の板チョコからローストまで「巻き戻し」で見てきたが、ここまでは、日本をはじめ世界中の大規模なチョコレート工場内での作業だ。それ以前の工程は、カカオ豆の原産国で行われている。機械ではなく、人間の手で豆の発酵と乾燥が行われ、おいしいチョコレートの原料として出荷されるのだ。
出荷前の原産国の作業としては、「発酵」がポイントになる。チョコレートは実は、ワインやチーズ、納豆などと同じ発酵食品。収穫したカカオの実、「カカオポッド」から取り出した種を、バナナの葉のなかで3〜5日かけて発酵させるのだ。
ここまでさかのぼって見てくると、チョコレートの原料「カカオポッド」が、あくまで農作物だということがよくわかる。原料のよしあしが味を決めるのは、ほかの野菜加工食品などと同じ。いくらチョコレート工場で技巧を凝らしたところで、原料の品質が悪いと絶対においしいチョコ製品は生まれないのだ。
次回は、チョコレートのおいしさを司るカカオポッドに迫っていく。
参考文献:「チョコレート検定公式テキスト2022年度版(株式会社 学研プラス)」