在日ペルー人女性の自立を助ける「アニバーサリーデコ」ブランド
在日ペルー人女性たちがペーパーフラワーやバルーンなど、カラフルなデコレーショングッズを企画・作成するブランド「SOL LUNA」。彼女たちを支え、ともに魅力的な商品を生み出しているのが、「Adelante(アデランテ)」の堀口安奈さんです。SOL LUNA誕生のきっかけや今後の目標を伺いました。
在日ペルー人女性のデコレーションスキルに感動!
堀口安奈さんは、日本人の父とコロンビア人の母の間に生まれた。母は日本語が堪能ではあったが、家庭内ではスペイン語で話すようにしていたという。そのため堀口さんは、両方の言語や文化に触れられる環境下で育った。
その経験やスキルを生かして大学時代から取り組んでいたのが、在日外国人に日本語や母語を教えるボランティアだ。卒業後は外国人支援のNPO法人で働きはじめ、その活動を通じて仲よくなったのが在日日系ペルー人の滝本エリカさん。ある日、滝本さんから子どもの誕生会に招待された堀口さんが目にしたのは、ペルーなど南米文化を存分に活かした見事な飾りつけだった。
「紫のバルーンが飾られているのを見て、母と帰省したときにコロンビアで開いてもらった、誕生日祝いのことを思い出したんです」(堀口さん、以下同)
それらのデコレーションは滝本さんの手づくり。日系ペルー人コミュニティ内では、デコレーションづくりの名人として、皆から作成を依頼されるほどの腕前なのだという。
この出会いがきっかけでできたのが、デコレーションブランド「SOL LUNA」。ハンドメイドで丁寧につくられたデコレーションは、絶妙なバランスの色づかいや豊富なバリエーションで、日々ファンを増やしている。日本の家でも飾りやすいようコンパクトなつくりにするなど、さまざまな工夫が凝らされており、赤ちゃんの誕生100日祝いからその後の毎年のバースデーまで、長く使い続けられるのも特長だ。
在日外国人女性の子らの厳しい現実
アデランテは「在日外国人女性の貧困と孤独を解消する」ことを目標として設立されたという。なぜ、堀口さんはそんな目標を抱いたのだろう。
「在日外国人の方たちに日本語やスペイン語を教えながら、生活相談にものっていました。そこで見えてきたのは、日本に出稼ぎに来られた外国人の生活の課題です。製造業などに従事される方が多いのですが、夫婦ともに非正規雇用で、収入が安定しないケースをよく耳にしました。さらに女性は、DVや別居、離婚など夫婦のトラブルなどがあった場合でも、経済的な自立ができないと、なかなかその境遇から逃れることができません。そのような不安定な家庭環境が、子どもに大きな影響を与えることにも気づきました」
文部科学省総合教育政策局国際教育課「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和3年度)」によると、外国にルーツをもつ子どもの高校進学率は低く、かつ高校中退率は高い。
「たとえ高校を卒業できたとしても、その後の職業は工場勤務や配送業の仕分けなど、親と同じ職場で働くことが多いのです。そのため、子どもも非正規雇用者の場合が多く、やはり生活が安定しないという連鎖につながっています」
それに加えて、日本における外国人支援のあり方についてもやるせない思いを抱いていたという。
「NPOで働いていたとき、補助金や寄付金を集めてできる活動には限界があると感じていました。それらのお金は日本語教室を運営するためなど、使途がすでに決まっていることがほとんど。彼女たちの生活の課題を解決するために、言語支援だけでなく、これまでの外国人支援の枠に収まらない新しい形の支援が必要だと思い、ソーシャルビジネスとしてSOL LUNAを立ち上げました」
堀口さんと一緒に働くペルー人スタッフは、滝本さん含め3人。現状では、ほかの仕事とのダブルワークを続けているが、「いずれは正規雇用にしたいんです」と、堀口さんは日々奔走している。
「日本社会で活躍できる素地」を養うために
堀口さんがスタッフミーティングなどの際に心がけているのが、できる限り日本語で話すこと。
「滝本さんたちが働く工場では、ただ単純作業を行うだけで、日本語を使う機会があまりないのだそうです。しかし、日本でキャリアアップをしたいなら、日本語を使わずに叶えることは難しいですよね。そのため、あえて日本語を使うようにしています」
滝本さんは、SOL LUNAの中心メンバーとして、企画からデザイン、制作に携わる。家族でペルーに一時帰国した際に、現地でデコレーション検定のレッスンも受けた。そして日本に戻り、こちらでデコレーション検定の資格を取りたいと一念発起したという。
「滝本さんは、はじめて会ったときから日本語が上手でしたが、ビジネスとなるともう少しのレベルアップが必要でした。ですから日々、少しでも日本語を使っていくことが重要だったのです」
また、日本語が不得手な他のペルー人スタッフが直面したこんな出来事も教えてくれた。
「以前、お子さんの進路相談で中学校に行った際、学校の先生は通訳をつけて丁寧に説明をしてくださったものの、複雑な日本の高校受験のシステムなどわからないことが多いとこぼしていました。また、初めて会う通訳の方に、抱えている経済的不安などプライベートかつ繊細な問題を打ち明けることができなかったというのです。
そこで、先生にもう一度ゆっくり話す機会を設けていただき、私たちスタッフが付き添い、不明点などを伝えて奨学金についての相談もあわせて行いました。彼女とすでに信頼関係を構築していた私たちだからこそ、2度目の話し合いでより詳しい事情を先生に伝え、話を進めることができたのかなと思います」
親子が受験のシステムを理解し、納得した結果、子どもは高校に無事合格、いまは楽しく学校に通っているそうだ。
「日本語ができないために必要な情報を得ることが難しく、子どもの進路選択が困難になっているケースは多い。そんな現実を思い知りました」
「自分の仕事に誇りをもてる」幸せ
SOL LUNAのパンフレットには、スペイン語の「Te queremos ser feliz(テ ケレモス セル フェリス)」という言葉が掲載されている。直訳すると「あなたを幸せにしたい」だ。
「デコレーションを通じて、お客さまのことを幸せにしたいという思いを込めました。同時に、お客さまに喜んでいただけることは、私たちの自己肯定につながります。南米の文化である素敵なデコレーションを提供することで、互いに幸せになるようなコミュニケーションが取れたらいいなと思っています」
「はじめて写真つきでレビューが届いたときの滝本さんのようすが、いまも忘れられません」と堀口さん。
「『子どもの人生で1回しかない、1歳の誕生日という大切な日に、私がつくったものを選んでくださるなんて、こんなうれしいことはない』と感動して涙ぐんでいました。自分がいいと思ってつくったものを、お客さまも素敵だと感じてお金を支払い、飾ってくれたことで、はじめて日本社会に認められた気がしたというのです。自分が好きで、自信があるものを認められたということが、とてもうれしかったのでしょう」
「働くペルー人スタッフたちそれぞれのもち味を生かしたい」。その目標を達成するために、堀口さんたちは今日もさまざまな課題に挑んでいる。
――後編に続く――
Text:市村幸妙