夏は体を冷やし、冬は温めてくれる自動空調「スマートウェア」
洋服のサプライチェーンを見直し、地球にも人間にも優しい「未来の服」を開発。最先端技術を駆使して「医学住宅」プロジェクトに協力することで、持続可能な国づくりにも寄与するアパレルブランド「hap」の取り組みを、前後編で紹介します。
服の各部分に別々の最先端機能をもたせる
環境に配慮した多機能性サステナブル素材のブランド「COVEROSS(カバロス)」シリーズを手がけるhap。代表取締役社長の鈴木素さんは7年間の繊維商社勤務を経て、2006年に独立。デニムを中心とした商品のOEM/ODMを手掛けるアパレルブランドを立ち上げた。カバロスをスタートさせたのは、2013年のことだ。
「繊維商社で働いていたころは、中国のアパレル工場で子どもたちが働いている姿や、工場排水をそのまま川に流したりする姿を日常的に目にしていました。もちろん工員は、当たり前のように化学薬品を吸い込んでいる。タイやミャンマー、インドネシアなどでも同様の光景が見られました。
いまはかなり改善されていると思いますが、2010年代の初頭くらいまでは本当にひどい状態でした。自分でアパレルブランドを立ち上げた理由のひとつが『こんなに環境負荷の高い業界では未来がない』という危機感、業界を変えたいという想いでした」(鈴木素さん、以下同)。
カバロスは2016年より本格的に販売を開始、一般アパレルからスポーツ、ワーキングウェアなど60~70のブランドに納品するヒット商品となっている。hapはこのシリーズをベースに付加価値をつける開発を進め、健康寿命延長を目指す「医学住宅」のアカデミック・パートナーとして医療費・介護費の削減につながる商品開発を手がけるまでに成長した。
「人にも地球にも優しい」をキャッチフレーズにするhapが新規開発した「世界初の快適多機能性素材」カバロスとは、どんなものなのか。
〇素材の90%以上はサステナブルなもの
年間約200万着枚のhap製品の90%以上でサステナブルな素材を使用。「通常よりも80%以上、水を削減した農法で生産したコットン」「リサイクルポリエステル」「100%トレーサビリティ可能なレーヨン」など、素材の生産工程における環境負荷やフェアトレードにこだわる。
「生産工程にこだわると当然コストも上がります。私たちはクライアントから依頼を受けた商品を生産するOEM/ODM企業ですので、価格面でもクライアントの求めに応じる必要がある。コスト削減が命題になりがちなOEM/ODM企業のスタンスとしては非常に珍しいと思います。当社は、たとえば主力アイテムであるデニム素材は、主にアメリカ綿を使用。できるかぎり業者を通さずに、生産地に直接、大量発注することで、トレーサビリティを確保すると同時に流通コストの削減を実現するなどして、コスト競争力を維持するように努めています」
〇生産工場の水の使用料やCO2の排出量を50%以上削減
現地の工場と協力して、水の使用量を減らすとともに排水環境も整え、工場用水が循環できる仕組みを考案。これにより、エネルギー消費量、CO2排出量も削減している。
〇商品の寿命を大幅に伸ばす
ファストファッション的な考え方を廃し、たとえば通常は30回着用できる商品を60回に延ばせるように、大学の研究室などと協力して品質の安定性を高めている。 コットンなどの天然繊維には、吸水、接触冷感、遮熱、透け防止、汗染み軽減、抗菌防臭、消臭、抗花粉、光触媒、毛玉防止など15の機能を持たせる世界初の技術を開発したという。
生地の部分加工は30㎠レベルで可能。たとえば、ワキの下や首筋など汗をかきやすいところには吸水拡散機能をもたせるとともに、抗酸化作用を持つセラミックスを混ぜ込んで抗菌防臭効果を高めるなど、一着の部分、部分に異なる機能をつけられる。在庫商品や古着にまで、これらの機能をつけられるのもカバロスシリーズの強みだ。イオン結合など複数の技術を組み合わせることで、機能性や耐洗濯性、風合いなどを調整できるという。
「スマートウェア」ならCO2削減も可能
このシリーズをさらに進めた第二世代の商品が、スマホなどと連動して暑いときには冷やす、寒いときには温めるなど、より快適な衣服内環境をつくり出す「スマートウェア」だ。
速乾性素材を採用することで、汗の水分を衣服内で素早く拡散させ、ベタつかせることなく気化させる。さらには、その気化熱で衣服内の温度を大きく下げる素材も開発中だ。
逆に寒いときには、繊維に組み込まれた温熱効果素材を、スマホと連動して機能させる技術も実験中。服自体に空調機能ができれば、エアコンの使用も減らせ、CO2削減につながる。
「信州大学や三機コンシスなどと連携して、スマホで服自体の温度を調整する技術や、着るだけで血行促進効果が期待できる衣服などを研究しています。どこを温めればリラックスできて安眠につながるのか。腸内環境を整えるには遠赤外線効果をはじめどんな機能を備えればいいのか。現時点での研究では、足の裏とふくらはぎ、上腕と太モモを同時に温めると、もっともリラクセーション効果が高く安眠につながるという結果も出ています。
ただし、普段着である以上価格を抑える必要があり、気軽に洗濯もできなければいけません。さらに、温まりすぎたり、冷えすぎたりすると事故にもつながりかねない。洋服ですからデザイン性も大切。けっして簡単な研究・開発とはいえません。それでも、何とか日々の体調に合わせて健康促進やストレス軽減、さらにはスポーツのパフォーマンス向上につながるような服をつくりたいと思っています」
―――後編は、第三世代「センシングウェア」について伺いますーーー
text:奥津圭介 photo:近藤誠