フェンシングのオリンピアン・池田めぐみさん、“山形県民の健康と社会課題”をコンディショニング中!
2025 年 12 ⽉におこなわれた、第9回「HEROs AWARD 2025」の授賞式。スポーツの⼒を社会貢献活動に活かすためのアワードで、元プロ野球選⼿の和⽥毅さんやサッカー元⽇本代表の本⽥圭佑さん、プロボクシングの那須川天⼼さんらが選出されてきました。今回は元横綱の⽩鵬翔さん(40歳)と、フェンシング元⽇本代表の池⽥めぐみさん(46歳)の2名が授賞。授賞式に登場した池田さんに、活動の内容や地元・山形への想いを伺いました。
がん闘病、出産を経て10年。「自分が本当にやりたいことは」
トップアスリートが“社会からの SOS” に応えるプロジェクト「HEROs Sportsmanship for the future」は、災害復興、難病児、少年院更⽣などをアスリートたちが支援するものだ。

授賞式での池田さん。「アスリートならではのコンディショニングというアプローチで、⼭形県にゆかりのあるアスリートとともに地域の魅⼒向上と社会課題解決を⽬指す活動」をおこない、高い評価を得た
池田さんは15歳でフェンシングを始め、北京オリンピックでは15位を獲得。ロンドン五輪を目指していた31歳のときに乳がんが発覚し、現役を引退した。それから手術と闘病、出産を経て10年がたち、自分が本当にやりたいこと、できることに思い至ったそうだ。
「自分はまだ、この世界に生き残れている。サバイブできたということは、何か役割があるんじゃないかなと思ったんです。それまでの人生は、『これをしてください』と提示されたものをただ実行することがほとんどだった。でもこれからは、自分が本当にやりたいことをしようと考えました」
池田さんが見つけた「本当にやりたいこと」は、コンディショニングを世に広く伝えていくことだ。スポーツ分野におけるコンディショニングとは、競技でのパフォーマンスを高めるために、心身の状態を最高の状態に整え、維持すること。池田さんは、自身が長年、当たり前のようにやってきたコンディショニングを、生まれ育った山形県の人びとの暮らしに役立てたいと考えたのだ。
「私が『何かがおかしい』と病気に気づけたのは、日々、自分の身体と向き合ってきたからこそです。アスリートとして生きてきたことが、結果的に私の命を救ってくれた。故郷・山形の方々にも、ケガや病気を予防し、健康に過ごす私のスキルを伝えたいと考えました。ちょうど、さまざまな人たちとの出会いにも恵まれ、『いまなら人の力を合わせて立ち上がれるかもしれない』と思い、活動を始めました」

田植えや稲刈りイベントも実施しつつ、地元・山形の魅力も再認識してもらっている
こうして、故郷の山形県南陽市や高畠町を拠点に、「YAMAGATA ATHLETE LAB.(ヤマガタ・アスリート・ラボ)」を立ち上げた池田さん。「アスリートの力を山形の力に。アスリートが挑む地域活性」を旗印に、活動を始める。
「コンディショニングは、特別なことじゃない」
「アスリートによるコンディショニングと聞くと、ハードルが高いもののように思われがちですが、まったく特別なことではないんです。よく『人はそれぞれ違う、同じ人はいない』といわれますが、人の身体の機能や筋肉の数はみんなほとんど一緒。私たちは誰でも、長時間座りっぱなしだったり、変な姿勢を続けていたりすると、関節などが固まって歪みが出てくるんです。すると動かせる範囲が狭くなり、身体の機能も低下してしまう。でも、自分の身体の変化に気づいて調整できれば、自分自身で健康を保っていける。コンディショニングは、生きるための習慣でもあるのです」
コンディショニングを体験した人たちのなかには、「肩こりが治った」「腰が楽になった」などと喜ぶ人もいるそうだ。
「実際に体験してもらうと、コンディショニングは特別なことじゃないと実感できる。すると活動にも共感してもらえるんだなと、手応えを感じました。産後のお母さんたちに向けた教室も開催しているんですが、私自身、出産後は体も心もボロボロで、子どもを抱っこし続けて、肩も腰も痛くなりました。でも、私はコンディショニングの知識があったから、腰が張ってる原因はココだな、だったらココをこうやって伸ばせばいい、と整えられたんですよね。それをみなさんにお伝えしています」

産後ママを対象にした、リカバリーコンディショニング教室。レッスンの間は保育士が子どもを見てくれるため、参加者はしっかり自分の身体と向き合える
不調にどう対処すればいいかさえ知っていれば、自分自身で整えられる。知識さえあれば、コンディショニングは誰でもできるのだ。池田さんの教室の最終的な目標は、「自分で自分をコンディショニングできるようになること」。そのため、なぜこのエクササイズが必要なのか、必ず理由を説明している。
「自分の身体へのアプローチを習慣としてもっていると、心と身体に余裕が生まれる。すると、笑顔が生まれるんです。お母さんが笑っていれば、家族みんなが笑顔になるじゃないですか。その笑顔を守ることが、私たちの活動の価値だと思っています」

山形の中学校でもコンディショニング教室を。どうすればパフォーマンスが向上するかを伝えている
フェンシングでの試合経験も、いまの活動に活きているそうだ。
「試合の際には、対戦相手の動きやリアクションから、『この人はマイペースだな』『ちょっと(相手が)イライラしてきたかも』など、性格やペースを読みながら進めていました。すると、相手を理解する力や、相手がいるからこそ試合ができて自分も高められるというリスペクトする感覚が自然と身についていった。社会貢献活動は、多くの人を巻き込むことが重要なので、スポーツを通して身につけた力や感覚がとても役に立っています」
「身体の不調で何かをあきらめる人たちを救いたい!」
池田さんの取り組みは、産後ママや高齢者たちのウェルネスケアだけでなく、食育や地域活性にも及んでいる。農業とスポーツ、健康をつなぎ、地域の未来を育む米「ヤマガタアスリートラボ米」を育てて販売し、その収益の一部を子どもたちのスポーツ教室や食育プログラム、農家と連携した田んぼイベントなど、地域の未来を支える活動につなげている。また購入者は、池田さんらアスリートとともに田植えや稲刈りを体験できるメリットも!

授賞式がおこなわれた会場で、講演をする池田さん。「アスリートには新たなコミュニティをつくる力や実行力がある、と実感しています」
これからも、いろんな人と協力しながら、地域の価値だけでなくアスリートの価値も上げていきたいと池田さん。
「いままでスポーツの世界でしか生きてこなかったから、いろんな人と関わってさまざまなかけ算ができるのが面白い。今後の野望は、山形県を、“日本一コンディショニングしている県“にすること。コンディショニングが当たり前になれば、医療費も下がっていくことにつながるかもしれないし、痛みなく身体が思いどおりにつかえるようになることで『何かをやってみようかな』と挑戦する人も増える。趣味でも仕事でも、身体の不調が理由であきらめてしまう人って多いと思うんです。そんな方々のサポートをすることも、私の役目だと思っています」
Photo:横江淳、Text:萩原はるな




