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水没危機の「ツバル」を救え! 日本人写真家・遠藤秀一の挑戦【第2回】
水没危機の「ツバル」を救え! 日本人写真家・遠藤秀一の挑戦【第2回】
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水没危機の「ツバル」を救え! 日本人写真家・遠藤秀一の挑戦【第2回】

地球温暖化による海面上昇の影響で、南太平洋の小さな島国、ツバルが水没の危機に立たされている──。その事実は、ひとりの男性の生き方を変えました。「自分の仕事も、環境破壊に加担している」との思いを強くした遠藤秀一さんは、設計士として勤めていた大手ゼネコンを退職、ツバルを救うために動き出します。今回は、遠藤さんの具体的な活動を紹介します。

──第1回の記事はこちら──

海面の上昇で地下水までつかえなくなった!

30歳のとき、大手ゼネコンを退職し、インターネットベースで仕事をする会社を立ち上げた遠藤秀一さん。ツバルのトップレベルドメイン「.tv」に着目し、その運用をツバル政府に提案したことから、その後、どっぷりとツバルにハマっていくことになる。

遠藤さんは初めてツバルを訪れた際、この写真を同国政府から託された。’96年の洪水被害のようすで、この状況を世界に広めてほしいと頼まれたのだ

「初めてツバルを訪れたのは1998年のことでした。このころにはすでに、ツバルが水没の危機にあることは世界で広く知られていましたが、実際に現地を訪れてみたところ、ものすごい緊急性を実感させられました」(写真家でNPO法人ツバルオーバービュー代表理事の遠藤秀一さん、以下同)

遠藤さんがツバルを初訪問したとき、ツバル国内では、気候変動や温暖化による海面上昇の影響があちこちで見られていたという。

「そもそもツバルは標高が低い国です。首都フナフティがあるフォンガファレ島はとくに低く、海面上昇の影響もあって、常に小舟の上で生活していると錯覚するくらい海面が近い状態。少し風が吹けば、波が陸上に押し寄せます。大潮のときには、島の中心部に海水が湧き出して洪水になります。地下水は塩分が入って飲めなくなり、ヤシの木やバナナの木は枯れ、タロイモ畑では農作物が育たない……。このようなことを目の当たりにしたり、政府の人から聞いたりして、大きな衝撃を受けました」

フナフチ環礁のなかには、すでに沈んでしまった小島もある

ツバルの首都はフナフチ環礁(かんしょう)内にある。環礁は、珊瑚礁でできた小さな島々が輪状に連なるものだが、遠藤さんが初めてフナフティを訪れたときには、すでに小島のひとつが沈んで見えなくなっていた。

「当時はまだ、ひとつの小島が水没していただけでした。でも今後、一つひとつ沈んでいって、しまいには全部なくなってしまってもおかしくない。『これは本当にヤバいんだな』と思いました」

ちなみに、ツバル周辺の海面が上昇し始めたのは1980年ころから。2000年近くになって海岸侵食などの被害に進展し、顕在化した。「地盤沈下では?」という意見もあがったが、海面上昇を計測している計測器のGPSの測定値には、地盤の上下方向の変動は記録されていないという。

裕福な国々が生んだ気候危機の犠牲に

初の現地滞在を終えて日本に帰国した遠藤さんは、現地で見たことを、さっそくブログで公開した。「ツバルの現状を多くの人びとに知ってもらうことが、気候変動対策を考え、解決に向かうきっかけになる」との思いからだった。

遠藤さん(左端)は、大学で公開授業などもおこなっている

「ブログをたまたまテレビ局の人が読んでくれて、ツバルのドキュメンタリー番組をつくることになり、撮影のため再びツバルを訪れました。ちょうど世界各国の目が気候変動に向き始めたころのことです。以後、いろいろなテレビ局が次々とツバルを取材するようになり、そのコーディネートを頼まれて、ツバルに行く機会が増えていきました」

こうしてツバルとの縁がどんどん深くなっていった遠藤さん、2005年4月には現地でNGO「Tuvalu Overview」を、10月には日本で「ツバル・オーバービュー」(2006年1月からNPO法人化)を立ち上げ、ツバル救済活動を本格化させた。

ツバルの豪華な昼食。とりわけヤシガニ(左)はごちそうだ

「ツバル国民の多くは、自給自足のシンプルな暮らしをしています。環境にほとんど影響を与えないような生活です。気候変動を引き起こすような生活をしてきたのは、日本も含めた先進国。それなのにツバルの人たちは、自分たちの国が消えるかもしれないという危機に直面している。裕福な国々の犠牲になっているというか……おかしいですよね」

こうした状況を、もっと多くの人に知らせなくてはいけない。遠藤さんが法人を立ち上げたのは、その強い思いがあったからだ。

石油タンクローリーを給水車に改造してツバルに

遠藤さんの活動ベースは、日本での講演会や写真展などの啓蒙活動だ。同時に現地で、すでに進行している気候変動の被害への適応策事業もおこなってきた。

干ばつの際は、公共の給水タンクに人びとが集まる

「ツバル国内で最初に手がけたのは真水の確保でした。ツバルでは海面上昇によって地下水が塩害を受けており、井戸水がつかえないんですね。そこで、大きなタンクに雨水を溜めて生活用水にしているのですが、日照りが続くと雨水もなくなる。家々に水を配るための給水設備が必要になりますが、それがなかったり、あっても老朽化が進んでいたりしたので、そこから手をつけました。もちろん、それには資金が必要なので、コスモ石油エコカード基金と組むことにしたのです」

具体的な活動内容は──。

「まずは、壊れた古い雨水タンクの修理。加えて、給水車の調達もおこないました。石油を運ぶためのタンクローリーのタンクを完璧に洗浄して水が入れられるよう日本で改造し、それをツバルに送りました。でも、この車も5年ほどで故障してしまって……。ただタンク部分はまだつかえるので、現地ではいまも給水タンクとして活用しています」

日本からツバルに運ばれた給水車の贈呈式。鍵を受け取っているのは当時のツバル国首相

政府庁舎建て替えの際、地下に巨大な雨水タンクをつくるなど、ツバル政府も対策はしているが、まだまだ十分な量の真水は確保できていないという。

「気候変動の影響でツバルでは干ばつが増えている。そのため、海水を真水にする機械を数セット、日本政府からツバル政府に提供しています。オーストラリアなどからも提供されています。この機械は電力をものすごくつかうので財政を圧迫するという欠点があります。本当は雨水だけでどうにかしたいところなんですけど」

まだまだ課題は山積み。遠藤さんたちの活動は続く。

──第3回は、マングローブ植林についてお届けします──

──第1回の記事はこちら──

photo:Shuuichi Endou text:佐藤美由紀

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