「寄付をカジュアルにしたい」ヘアメイク山本麻未がつくった『キフクリエイト』は、どこが“新しい”のか?【前編】
2024年に報告された「世界人助け指数」において、日本は142ヵ国中141位と世界ワースト2位になってしまいました。そこでヘアメイクアップアーティストの山本麻未さんは、「みんなの“好き”や個性・発想と寄付をつなぎたい」と『キフクリエイト』を設立。その活動やキッカケについて、山本さんに伺いました。【前編】
“寄付マガジン”も自費出版
欧米などにくらべると、日本にはまだまだ寄付文化が根づいていないように思える。けれども山本さんによると、「助け合いの精神は、むしろ昔からどこの国よりも強いと感じている」という。その潜在的な誰かの力になりたい気持ちを、より行動に移しやすく、より楽しめるものにしたい。これこそが、キフクリエイトのポリシーだ。
キフクリエイトの活動は実にさまざまだ。メインは売り上げの10%が寄付につながるドリップバックコーヒー「KIFU COFFEE」の販売。パッケージのイラストは、活動に賛同するさまざまな会社や個人がデザインしたもので、思わずコレクションしたくなるキュートさ!

KIFU COFFEEのパッケージにはいろいろなイラストが。プレゼントにも最適だ
さらに、規格外で出荷されなかった花をアップサイクル。売り上げの10%を寄付へと循環させている。また、寄付をよりポップでカジュアルなものにしたいと、ファッションマガジンのようにオシャレなキフマガジン『KEEFU』も自費出版中だ。
キフクリエイトはNPO法人ではないため、組織的なサポートは得づらい。そのため活動に参加・賛同してくれた人びとや組織が、その内容をSNSに投稿してくれることが一番の広報活動だという。投稿がリポストされることで、ジワジワとだが着実に、裾野を広げている。
さまざまな団体に、いきなり連絡!
主宰者・山本さんの本業はヘアメイクアップアーティスト。東京コレクションをはじめ、広告や雑誌、映画、ドラマなどで幅広く活躍していた。アジア諸国でメイクをする夢を持ち、23歳のときに中国に渡っている。その後は中国のファッション雑誌やテレビでヘアメイクを担当するなど、寄付とはまったく関係のない世界に身を置いていた。それが一転、寄付活動にエネルギーを注ぐようになったのだろう。

山本さんは多くのタレントのヘアメイクを手がけている
「正直、寄付への関心は薄かったんです。10代の頃、『給料の10%を寄付に回すのがいい』という本を読んで、『大人になったらやろう!』と思っていたものの、いざ社会人になると『今月はお金がないな』『もうちょっと稼げるようになってから』とズルズル。
当時の私は、交通費とか食費とか、支出項目ごとに袋に分けておカネを入れていたんですね。そのひとつに寄付という袋もつくってはいたんです。でも、そこにおカネを入れることはなかった……。いい人にはなりたかったけれど、ぜんぜん行動がついていかなくて、寄付なんて完全に他人ごとでした」(山本さん、以下同)

キッズにヘアメイクを施して撮影し、その売り上げの一部を寄付するというイベントも開催していた
転機となったのは、自身の子どもが小児難病を発症したことだった。
「息子が3歳のときに、Ⅰ型糖尿病を発症したんです。闘病生活のなかでいろんな病気を抱える子どもや、疲弊している家族を目の当たりにして、『何かできることがあるんじゃないか』と、いてもたってもいられなくなって。病院の片隅で企画書をつくりました。ヘアメイクという仕事柄、カメラマンなどとの人脈があったので、メイクつきで家族写真を撮影する有料イベントをして得たおカネを寄付する、という案でした。この企画書をいろんな団体、会社に送りつけた(笑)。でも、当然ですけどまったく反応がなくて。そこで、誰かをアテにしていては実現が難しい、ならば自分でやろう!と思って。コツコツ撮影会をやるようになったんです。そのときは、完全にライフワークになっていました」
そのうちにコラボを申し出てくれる企業も出てくるなど、ゆっくりと活動は軌道に乗り始めていた。が……。
「そのさなかにコロナ禍に突入してしまったんです。対面でおこなうイベントができなくなり、活動内容をオンラインでできる商品販売に切り替えました。最初は息子が描いたイラストをデザインに取り入れたチャリティTシャツを販売。これによって活動地盤となる箱のようなものができたので、キフクリエイトという社団法人をつくって、もっと幅広く活動していくことにしたんです」
活動が勝手に育ってる!
設立から約3年。まだまだ軌道に乗せる途中だというが、自分が思っていた以上に活動が育っていると実感しているそう。
「チャリティTシャツに続いて、KIFU COFFEEの販売を始めました。せっかくつくるなら、かわいくて思わず手に取りたくなるもの、誰かにあげたくなるものがいいなと思った。かつ、そのコーヒーを通して支援先のことを知ってもらえたらと、支援しているネパール孤児院の子供が描いたイラストや、Ⅰ型糖尿病の子どもが描いた絵をパッケージに載せたんです。それが好評だったので、支援先の関係者に限らず、活動に賛同してくれる幅広い人たちから100のイラストを集めて袋にデザインしたら楽しいかも!と思いついて。インスタやチラシで募集したところ、200近くも集まったんです。ぜんぶ載せたかったけど、泣く泣く100個に絞りました。
描いてくださった方から、『もともとイラストを描くのが好きで、何かの形で世に出すのが夢だったんです』といったコメントをいただいたこともあります。寄付だけでなく、夢を叶えるツールにもなっていっていると感じて、『ああ、活動が育っているな』とキュンとするんです」
KIFU COFFEEを買った人がSNS上でその発信をすると、イラストを描いた人が「寄付してくれてありがとう」とリプライすることも。そんなふうにポジティブの循環が生まれていることが、うれしくてたまらないのだという。
「昨今は暗いニュースが多くて、日本は冷たいとかいわれることもありますけど、本当はやさしい人がめっちゃ多い国だと感じます。子どもの病気というと悲しく、深刻な話になりがちですけど、私の場合は子どもの病気があったからこんな世界を知ることができた。そう思えると、病気への捉え方も変わってきました」
素敵なことが起こったら、みんなでシェアしたい
だからこそ山本さんは、キフクリエイトを運営していくうえで「楽しくあること」をポリシーにしているという。
「活動を始めたきっかけが子どもの病気だったので、取材などを受けると『大変なんです』というひな形を求められがち。もちろん大変さを伝えることも大事だと思いますが、そんな発信ばかりになることには違和感があります。実際、息子は大変だけど、病気を個性としながら元気に楽しく生きています。その姿を見ていると、ネガティブな部分にフォーカスして生きるのは嫌だな、と思ったんですよね」

廃棄される花をドライフラワーにしたり、花や葉の部分をつかってキャンドルにしたり。売り上げの10%を寄付している
「物ごとって何でも表裏一体。ネガティブがあるなら、同じだけポジティブもあるはず。実際、こうしてKIFU COFFEEの販売を始めて、『コーヒーがおいしい♡』『イラストがかわいい!』といった喜び、楽しみが生まれている。そのポジティブに乗っていったほうが絶対にいいし、寄付をするほうもそうやってポジティブのおすそ分けがあると、寄付が楽しいものに変わっていくんじゃないかな」
山本さんは必ず、ホームページで寄付報告をおこなっている。
「商品を買ってLINEに登録してくれた人に向けて、活動内容やさまざまなできごとを発信しています。せっかく素敵なことが起こったら、独り占めしたくない、みんなでシェアしたい。そうやってポジティブが広がっていったらいいなと思っています」
──後編に続く──
photo & text:山本奈緒子