瀬戸内海のごみをゼロに! 山陽学園「地歴部」14年間の奮闘!!【前編】
おだやかで美しい海。そんな印象が強い瀬戸内海ですが、実は海の底や、その海に浮かぶ島々の沿岸には大量のごみが集まっていることをご存知でしょうか。そんな現状を憂い、問題を解決するために立ち上がった中高生がいます。岡山県の山陽学園中学・高等学校「地理歴史研究部(地歴部)」の生徒たちがそう。SDGs14番目の目標、「海の豊さを守ろう」に向き合う彼らの取り組みに迫ります。
ボトルからバイクまで──海ごみを回収する“部活”
山陽学園中学・高等学校の地歴部が海ごみの問題に取り組みはじめたのは、SDGsが国連総会で採択される2015年よりもずっと前のこと。2008年、地理を担当する教諭の井上貴司さんが同部の顧問になったことがキッカケだった。
「岡山県は瀬戸内海に面しており、部活動として環境問題に取り組んでみたいという思いがありました。当時は海洋プラスチックの問題が、ぼちぼち表面化してきたころ。生徒たちと一緒に、海ごみの問題に取り組めたらと考えたのです」(井上さん、以下同)
こうして、新生・地歴部の活動がはじまってから今日までの14年間、部員たちは、瀬戸内海の海洋ごみ問題、とくに海底ごみと、島嶼部(とうしょぶ=大小の島々が集まった地域)の漂着ごみ問題の解決に向けて取り組んできた。
「海底ごみの問題に関しては、地元の漁師さんに協力してもらい、生徒たちが底曳網(そこびきあみ)の漁船に乗り込み、網にかかったごみを分別、回収するという活動を行ってきました。最初は『船が沈んだらどうするんだ』など心配した山陽学園側から、なかなか許可が下りなくて……。最終的に『現場に行かないとわからないこともある。机にかじりついて得た知識だけでは、社会に出たとき対応できない』と校長が後押ししてくれて、いまのような活動ができるようになったのです」
底曳網(そこびきあみ)には、魚に混じって、実にさまざまなごみがかかる。マイクロプラスチックなど網をスリ抜けてしまう小さなもの、逆に網を破ってしまうほどの大きなごみは回収できないが、それ以外の、ありとあらゆる種類のごみが網に入るという。ペットボトル、空き缶、発泡トレーはもちろんのこと、家電、ガスコンロに、はては自転車、バイクまで! 世の中に存在するもの、すべてがごみとして網にかかるといっても過言ではないという。部員たちは、これらを船の上で分別し、回収する。
「瀬戸内海に浮かぶ島々に足を運び、沿岸部に漂着したごみを拾う活動も行なっています。島の沿岸にはおびただしい数のごみが流れついているんですよ。ときには人口30人ほどの島で1時間に2000本のペットボトルを回収したことも……。こうして回収した海底ごみなどは、一部を学校に持ち帰ります。それからひとつ一つチェックして、食品の包装ごみなどで賞味期限や販売されていた店が特定できるものはそれを記録。ごみの起源をたどる調査を行います。そのごみが『いつごろ、どこで捨てられたか』を見える化すると、海ごみは陸からやってきたことがよくわかります」
瀬戸内海にあふれる海ごみは年間4500トン。そのうちの約7割は、井上さんが言うとおり、陸から流れ出たものだとされている。
「ごみの多くは、当然、陸で人が捨てたものです。そうしたごみを生徒たちは回収しているわけですが、いくら拾っても、発生を止めない限りイタチごっこが続きます。現に、人口30人ほどの島で2000本のペットボトルを回収しても、1ヵ月後には元の状態に戻っていたりします。つまり、ごみを減らすには、陸で暮らすわれわれ住民ひとり一人の意識を高めることが大切なのです。海ごみについて調査したことをもとに、公民館で出張講座を開いたり、商業施設で回収したごみと一緒に解説をパネル展示したりするなど、啓発活動にも力を注いでいます」
こうした活動の甲斐あって、同校地歴部は、第9回イオンエコワングランプリ内閣総理大臣賞(最高賞)をはじめとする数々の賞を受賞。部の活動は、SDGsの視点から「海の豊さを守る活動」として、高校の地理総合の教科書で紹介されてもいる。
「いろいろな賞をいただいているのは、本当にありがたいことです。もちろん、私たちの活動を知った主催側から表彰していただいたケースもあるのですが、自分たちでエントリーして受賞したパターンもあります。1年に一度は賞金のあるコンクールに出場して、賞をとれるようにがんばっているのです(笑)。せっかく意味のある活動をしているのだから、発表する機会があったほうが励みになりますし、その結果、賞金を得られれば、活動の費用に回せますから。部費として学校から支給されるお金だけだと、漁船に乗ってごみ回収をする活動の1回分にも満たなくて……」
地歴部の海ごみの問題に取り組む活動は、たった2名の部員でスタートした。当時はまだ、そうした活動は珍しく、早くからメディアで紹介されてはいたものの、周囲からは単なる「おもしろ活動」と見られ、好奇の目を向けられることが多々あったという。
しかし、まじめにコツコツ活動を続けているうちに、だんだんと認められるようになり、部員の数も増えていった。2022年9月現在、地歴部に所属する生徒は51名。校内で、もっとも人数が多い部活になった。SDGsという言葉が世の中で知られるずっと前から活動を続けてきた地歴部は、いまや、山陽学園の〝顔〟になっている。
取材・文/佐藤美由紀