「印刷会社による再生プラスチック」、ただいま奮闘中!
この夏、東京・新宿区のDNPプラザで開催されている企画展「Recycling Meets Design展 『デザインの力』で再生プラスチックを活かしたい。」(10月1日まで)。主宰する「Recycling Meets Design Project」は2019年に大日本印刷内で立ち上がり、数多くのデザイナーやリサイクル業者、関連企業などを巻き込んで広がり続けています。このプロジェクトの現在地を、企画展の展示内容とともにレポートします(前編)。
デザインの力で再生プラスチックの可能性を広げたい
「Recycling Meets Design Project」(以下、RMD)の大きなテーマは、家庭から出るプラスチックパッケージごみからつくられる「再生プラスチック」の用途拡大。企画展「Recycling Meets Design展 『デザインの力』で再生プラスチックを活かしたい。」会場の入り口そばにある「マテリアルリサイクル」は、実際に家庭から出るごみにはどのようなものがあり、それがどんな過程を経て再生プラスチックとなるのかを視覚的に理解するための展示だ。
「家庭から出るプラスチックごみは、プラスチックマークのついた卵パックや、スーパーで肉や魚などが売られるときの容器になっている発泡トレイ、歯ブラシなどの日用品と、多岐にわたります。これらは自治体によって回収され、分別された後、リサイクル業者が粉々に砕き、溶かして再生プラスチックの原料となる樹脂『ペレット』を生成します。このペレットは、新品のバージン・プラスチックと比べると、さまざまな混ざりものが入っていて扱いづらい。そこが大きな問題なのです」とは、大日本印刷の川上愛さん。
ペレットは、ほかのプラスチックや木粉などと混合して使われることもあるが、現在の用途は、輸送に使われるパレット、公園のベンチ、建築基礎の資材程度。用途はかなり限られている。
技術的な研究を進めつつ、デザインの力を借りて、ペレットからできる再生プラスチックの用途を拡大していこう——。それこそが、RMDの目指すところだという。
色ムラや傷つきやすさを逆手にとって「味」に変える
展示会場奥、壁際の展示「再生プラスチックの現在地」。ここでは、再生プラスチックを使ったプロダクトが実用化、量産化されるにあたっての課題を明確にするために、RMDが行っている3方向からの技術的トライアルが紹介されている。3方向とは、「使用性」「成形性」「衛生性」だ。
「使用性」を検証するために使ったプロダクトは、スマホカバー。大日本印刷社内の162名のモニターに、再生プラスチックでつくられたスマホカバーを配布、半年間使ってもらい、その使用性についてアンケートをとった。
「色や触り心地、機能面など、『実際に使ってみてどう感じたか』の感想を集めました。実際、再生プラスチック製品は色合いにムラが出たり、傷がつきやすかったり、耐久性や品質がまばらになりやすいといった傾向があります。ただ、色ムラを『汚れ』ではなく、『風合い』『味がある』と感じる人もいる。独特の色がアースカラーと捉えられ、『愛着がわいた』など、好意的な声も多数上がってきました」(川上さん、以下同)。
たとえばアウトドアグッズなら、「何年も使い込んでススや油汚れがついたことで、さらに愛着がわいた」という声を聞く。そのようなアイテムならば、真っ白や透明になりにくい再生プラスチックのデメリットを逆手にとって、メリットに変えることも可能だろう。
トライ・アンド・エラーを繰り返した先に
つづいて「成形性」。どうすれば再生プラスチックを、希望どおりの形や質感に成型できるのか。型をつくって流し込むのか、何かを混ぜて性質を変えるのか。はたまた3Dプリンターで成形するとどうなるのか……。
「やはり混ざりものが多いので、成形するのに適切な温度がそれぞれ違ったり、設備の設定をその都度変えねばならなかったりなど、トライアルのたび、取り扱いの難しさが浮き彫りになってきました。ただ、トライ・アンド・エラーを繰り返すうちに、バージン・プラスチック製のものと遜色ない精度で成形できた製品が出てきたり、あらたに混ぜる素材として適正なものが見つかったり、それなりの成果も出てきています。まだ、さまざまな方法を試してノウハウを蓄積している段階です」
最後に「衛生性」。たとえば子どもが誤って口の中に入れてしまっても問題はないのか。それを確認するため、おもちゃや子どもの日用品を対象にした安全基準評価の公的検査を受けた。
「再生プラスチックをつかった製品を2回、検査に出したところ、『重大な欠点は見当たらない』という結果を得られました。ただ、この品質レベルを安定的にクリアできる保証は、いまのところありません。そこをクリアできれば、一般的なプロダクトとして受け入れられる下地ができたといえるでしょう。まだまだ研究です」
text:奥津圭介