Do well by doing good. いいことをして世界と社会をよくしていこう

上野動物園が「世界の動物を守る」ためにできること(前編)
上野動物園が「世界の動物を守る」ためにできること(前編)
PROJECT

上野動物園が「世界の動物を守る」ためにできること(前編)

シャンシャンに続き、シャオシャオとレイレイの双子のジャイアントパンダが誕生し、国内外から注目を集めている恩賜上野動物園。けれども30年以上前から、世界中の動物を守るさまざまな取り組みをおこなっていることは、あまり知られてはいないようです。動物園だからこそできる、野生生物保全や動物福祉への取り組みについて伺いました。

動物保全のための「ズーストック計画」とは!?

都立動物園や水族園が、飼育展示する希少動物の保護・繁殖をはかる「ズーストック計画」。東京都がこれを策定したのは、動物園が「人気の動物を集めた娯楽施設」として認識されていた1989年のことだった。

「ストックという言葉どおり、絶滅の危険性がある動物を動物園で『貯めておく』、つまり野外の動物にダメージを与えることなく、動物園内で計画的に繁殖して種を保存する、という計画です。当時の対象動物はコアラやニシゴリラ、ジャイアントパンダなど50種類。都立動物園全体で取り組むことで、50種類のうち38種類の動物の繁殖に成功してきました」(恩賜上野動物園教育普及課長 大橋直哉さん、以下同)

開園140周年を記念したパネル。上野動物園ではこれまで、ジャイアントパンダ、アジアゾウ、ニシゴリラなどの繁殖に成功している。パネルではそうした成功例とともに、ズーストック計画についても説明。

この計画をベースにしてさらに進めたのが、2018年に策定された第2次ズーストック計画だ。動物を「増やす」だけでなく、野生の動物を「守る」と同時に、そうした取り組みを広く「伝える」ことも盛り込まれたという。

「かつて動物園の目的は、野生動物を連れてきて『飼う』ことでした。そこから増やすことに目を向け、さらに野生の動物を一緒に守っていこう、と啓発する役割がプラスされたのです」

畜産を学んで恩賜上野動物園に入職した、教育普及課長の大橋直哉さん。ズーストック計画のキーパーソンとして活躍している。

動物園内で増やすだけでなく、野生の動物を守る取り組みとの連携も進められてきたという。多摩動物園では繁殖したコウノトリの個体や卵を、野生復帰に取り組んでいる兵庫県の豊岡市などにも提供してきた。

「第2次ズーストック計画では、124種・亜種の動物がズーストック種に指定されています。かつてはとにかく『産めよ、増やせよ』という方針でしたが、近年では遺伝的多様性が重視されています。たとえば1頭の個体が10頭子どもを産むのではなく、10頭が1頭ずつ産むほうが望ましい、というもの。増えた数は一緒でも、特定の遺伝をもつ個体ばかりが増えるのはあまりよくないという考え方です」

繁殖がうまくいく個体と、そうでない個体はどうしても存在する。そこがなかなか難しいのだという。

「また動物園という限りあるスペースのなかで行う以上、毎年無限に増やすわけにはいきません。その動物の寿命や出産年齢などを考慮しながら、いつ繁殖させるかを考える必要があります。

近年では日本の動物園、さらには世界の動物園が互いに協力しましょう、という気運が高まっています。レッサーパンダやスマトラトラなどは、世界動物園水族館協会(WAZA)の国際種管理計画(GMSP)に沿って、世界中の動物園が園の垣根を超えて連携し、計画的に動物を管理しています。国内でも、公益社団法人日本動物園水族館協会が中心となり、コレクションプラン(JCP)を策定し、数多くの種を対象にして計画的に繁殖に取り組んでいます。

園の垣根を超えて種ごとに連携し、計画的に動物を管理。上野動物園は規模が大きいので、中心となる計画管理者を任されるスタッフも多いのです。そのため、こうした連携の要のポジションを担っているといえるでしょう」

インドネシアのスマトラ島に生息するスマトラトラ。トラの亜種で、現在生存するトラのなかでは最も小さい。その特徴や絶滅の恐れがあることは、園内のパネルで詳しく説明されている。

年々数が減る日本の固有種を守れ!

ジャイアントパンダやスマトラトラ、ホッキョクグマなどの動物を守ると同時に、日本の固有種を守る取り組みにも力を入れているという。

「どうしても人気のある動物に目が行きがちですが、それ以外にも多くの動物が絶滅の危機に瀕しています。日本固有の種を守ることは、私たちの大事な責務だと考えています。たとえば高山地帯に生息するキジ科のライチョウ。地球温暖化の影響などで、年々数が減っています。ライチョウは巣に産み足している卵がなくなると再び産卵する習性があるため、野生のライチョウの卵を回収して園で孵化させて増やすといった、野生個体数への影響を最小限にしつつも、動物園で保全をする試みがおこなわれています」

日本に生息するライチョウは、世界のライチョウの仲間のなかで最南端に隔離分布する亜種。1980年代には約3000羽と推定されたが、2000年代には2000羽弱に減少したとされている。

繁殖に成功したら、そのノウハウや情報を他園に共有。そうすることで、繁殖技術の底上げを図っているという。また、上野動物園など都立動物園・水族園では、野生動物が住む環境の整備にも着手している。

「東京にも多摩地区や小笠原諸島などに、多くの絶滅危惧種が生息しています。都内のアカハライモリも年々数を減らしているのですが、その生息地を訪れて環境を調査し、池の補修をするなどの整備をおこなっています。地元の子どもたちを呼んで、現地で保全について知ってもらう取り組みもしているんですよ」

――後半に続くーー

photo:(公財)東京動物園協会(ジャイアントパンダ)、横江淳 text:萩原はるな

Official SNS

芸能人のインタビューや、
サステナブルなトレンド、プレゼント告知など、
世界と社会をよくするきっかけになる
最新情報を発信中!