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TOKYO商店街 再生ストーリー2  なぜ「下町人情キラキラ橘商店街」は賑わいを取り戻せたのか!?(後編)
TOKYO商店街 再生ストーリー2  なぜ「下町人情キラキラ橘商店街」は賑わいを取り戻せたのか!?(後編)
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TOKYO商店街 再生ストーリー2  なぜ「下町人情キラキラ橘商店街」は賑わいを取り戻せたのか!?(後編)

墨田区北部の京島は、第二次世界大戦の空襲でも奇跡的に大きなダメージを受けることなく戦後も発展。紆余曲折を経て、区で1、2位を争う元気な商店街「下町人情キラキラ橘商店街」が形づくられました。後編では、「地域密着型」商店街を見事に復活させた、具体的な取り組みを紹介します。

前編はこちら

商店街組合が空き店舗に新店を誘致

「時代に合わせて周辺住民の生活も変わり、商店街に求められるニーズも変わっている。でも、商店街はなかなか変わろうとしない。それでは生き残るのは難しいですよね」。そう語るのは、「下町人情キラキラ橘商店街」の協同組合で事務局長を務める大和和道さんだ。

同商店街は時代の変化に合わせて自ら改良し、少しずつ変わってきた。近年は千葉大学墨田サテライトキャンパスなど2つの大学が近隣に進出、学生たちが勉学の一環としてフィールドワークなどで日常的に商店街に顔を出し、「キラキラきっずくらぶ」「デザデザ橘商店街実行委員会」の設立など、さまざまな提案、協力をしてくれるようになった。それにつれ、街も賑わいを取り戻しはじめた。

もちろん、商店街組合も学生に頼りきりだったわけではない。キラキラ橘商店街では、近年空き店舗が増えていることが問題になっていた。このままでは、いわゆるシャッター街になってしまう──。そこで組合は、空き店舗に新たな店を誘致しようと考えたのだ。

だが、多くの空き店舗は高齢オーナーの住居を兼ねているうえ、古びた店舗を貸し出しできる状態にするため百万円単位の金をかけリフォームしても、安定的な借り主が出てくるとは限らない。空き店舗のオーナーが二の足を踏むのも無理はなかった。

そこで組合は、自身がオーナーから空き店舗を借り上げ、出店希望者に貸し出す「サブリース事業」をスタートした。組合が墨田区のワンモール・ワントライ作戦推進事業制度を活用し、空き店舗の改装費や家賃に対する補助を受けることで、出店者の初期コストや家賃の一部を負担。出店を強力に後押しできるようにしたのだ。

その成功例が「すみまめカフェ」だ。

「介護福祉を行う民間企業、クリエイト・ケアを組合が誘致しました。空き店舗に介護支援事業所を開きたいというご意向でしたが、代表者によくよく話をうかがうと、その方は食品衛生管理者の資格をお持ちでした。そこで、『せっかくですから、カフェを併設しませんか』と提案したのです。同社は介護に関してはプロでも、カフェ営業のノウハウはない。しかし、われわれ商店街のネットワークを利用すれば、有名店からおいしいコーヒー豆を、人気ベーカリーからパンを安定的に仕入れられるのです」(大和さん・以下同)。

こうして生まれたのが、介護とカフェのハイブリッド施設「すみまめカフェ」だ。

介護支援事業所とカフェが一体化した「すみまめカフェ」。2015年にオープンし、日本初の業態としていまも注目されている。他の自治体、地域事業所からの視察、問い合わせが引きも切らない。

具体的な事例が生まれれば、フォロワーがついてくる。変化し続ける橘商店街の魅力に気づいた若者たちは、組合が仲介したサブリース契約で洋服店やカフェ、ベーカリーなどを出店しはじめた。2020年に4店舗、2021年には3店舗。相次いだ新規出店は軒並み成功を収めているという。

「区の家賃補助などは、あくまでも1年間限定。ちゃんと審査して、しっかりした事業計画を持つことがわかった会社や個人でなければ、開店してもらうわけにはいきません。『補助金が出なくなったらサヨウナラ』では、意味がありませんからね」

組合が新規出店者の出店から経営までをサポートすることで、一時期は62軒にまで減っていた橘商店街の店舗数は、72軒になった。間違いなく、活気は戻りつつある。

「変わろうとしない」商店街が変わりはじめた

若者たちの新規出店は、既存の店にも大きな刺激を与えた。新規店は営業時間も長く、土・日曜も店を開けている。こうなると、既存商店主の休日に対する意識も変わらざるをえない。週末に商店街で行われるイベントが増えたこともあり、これまでは休んでいた土曜、日曜日に営業するなど、来訪者のライフスタイルに合わせる既存店が増えてきた。「変わろうとしない」商店街が、ゆるやかに変わりはじめたのだ。

商店街と学生をつなぐ学生団体「デザデザ橘商店街実行委員会」。自分たちがつくった水耕栽培ハーブの販売や、ワークショップの主催、イベント運営の手伝いなどを通してまちづくりをサポートする。

2020年11月には、大学生や地元住民が主体となり、2日間のイベントを開催した。「キラキラ橘☆ほくほく!北斎」がそれで、ご当地アイドル「帰ってきたキューピットガールズ」らのステージほか、見どころ満載だった。結果、同イベントは、東京都が主催する「第16回東京商店街グランプリ」のグランプリを受賞。2021年12月にも同様のイベント「キラキラ橘☆勝つ勝つ!海舟」を開催し、好評を博した。これらのイベント名は、墨田区ゆかりの偉人にちなんでいるそうだ。

「学校や病院、公園や道路など、街を構成する要素はたくさんあり、商店街もそのひとつ。バラバラで何かを変えようとしても限界があります。とにかく、それらをつなげちゃおうと、一般社団法人『つながる橘』も設立しました。墨田区や地元の信用金庫、大学、商工会を巻き込み、まちづくりのための、大きな意味での窓口になっています。地元町工場と商店街のコラボ商品も企画中です」

大和さんは、さまざまな業種の現役世代や若者を巻き込み、自分たちが引退した後も「住み続けられる街づくり」を進めてもらいたいと、日々、真剣に考えている。

前編はこちら

下町人情キラキラ橘商店街では、クリスマスが近づくと青いイルミネーションがメインストリートを彩る。

text:奥津圭介

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