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TOKYO商店街 再生ストーリー2「下町人情キラキラ橘商店街」は、なぜ賑わいを取り戻せたのか!?(前編)
TOKYO商店街 再生ストーリー2「下町人情キラキラ橘商店街」は、なぜ賑わいを取り戻せたのか!?(前編)
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TOKYO商店街 再生ストーリー2「下町人情キラキラ橘商店街」は、なぜ賑わいを取り戻せたのか!?(前編)

京成曳舟駅(東京都墨田区)より徒歩約10分。東京スカイツリーからほど近い、全長約470mの昭和レトロな商店街が「下町人情キラキラ橘商店街」です。昨年の「東京商店街グランプリ」では、この商店街のイベントがグランプリを受賞。「インバウンド型」でもなく「駅前型」でもない「地域密着型」商店街の見本というべき賑わいを取り戻した、その取り組みに迫ります。

地域密着型の商店街に求められる役割

東京スカイツリーから約1.8㎞の京島エリアにある「下町人情キラキラ橘商店街」。メインロードには戦火を逃れた古民家や長屋風の街並みも残り、昔ながらの惣菜店や乾物店など、多様な店舗が軒を連ねている。

そんな商店街がもっとも賑わっていたのは1970~1980年代のこと。当時は137店舗が並び、毎日、昼すぎには主婦たちが夕食の買い物に訪れ大盛況だった。ところが、90年代に入ってバブル崩壊、中小の小売店を守っていた大店法の改定などが重なり、橘商店街は少しずつ衰退していった。一時は、店舗数も62にまで減少してしまったのである。

駅前の商業エリアとの差別化を図るため、チェーン店等の出店は少なく、昔ながらの魅力的な店舗が軒を揃える。

約40年間、この商店街で肌着店を営みながら、向島橘銀座商店街協同組合の役員を歴任してきた大和和道さんが組合事務局に専念することになったのは、約9年前のこと。ちょうど東京スカイツリーが完成して間もない時期だった。スカイツリー目当ての観光客は増えたものの、商店街の店のほとんどは土曜、日曜に店を閉めていたため、周辺が観光地となっても、その恩恵を十分に受けられてはいなかった。

「ウチは浅草・仲見世のような広域・インバウンド型の商店街ではないし、駅から降りてすぐの、大勢の乗降客で賑わう駅前型でもない。あくまで近隣半径500mの需要を満たす、地域を支える商店街なんです。まずはその特性を理解する必要がありました」(大和さん・以下同)

同商店街には、地元の買い物需要を満たすだけではない、重要な役割があった。

「車があまり通らないので、よく近隣の保育園、幼稚園の散歩に使われます。幼稚園の保母さんも『商店街のみなさんが園児たちに声をかけてくれるし、園児からも「あそこに行きたい!」と大人気。本当にありがたい存在です』と言ってくれる。商店街はその地域の安全・安全を担保する、地域コミュニティの担い手でもあるんですね。

決してすたれていい商店街ではない。立て直すには、来訪者が商店街に求めるニーズや、時代にともなうライフスタイルの変化を各商店主に理解してもらい、変わっていくしかない。そのためにハードとソフト、両方の変革が必要だと考えました」

あえて、年中無休24時間営業のスーパーを誘致

まず着手したのは、ハード面の改善だ。経産省からの補助金や区の助成金も利用して、商店街の街路灯45本を新品に入れ替え、9本のアーチもすべてキレイなものにつけ替えた。

「近年は台風クラスの大雨や大風も珍しくありません。万が一、事故でも起きたら商店街は終わりですからね。不安な要素を払しょくしたかったのです」

向島橘銀座商店街協同組合の事務局長・大和和道さん。商店街で40年近く肌着店を運営し、現在は事務局専任。まちづくりに関する事業をいくつも立ち上げている。

さらに24時間365日営業のディスカウント・スーパー「Big-A」を4年かけて誘致した。2019年にオープンし、地元住民に喜ばれているという。

「商店街は、一度行けばほしいものがすべて揃うという『ワンストップ・ショッピング』の環境でなければ、客足が遠のいてしまいます。とくに高齢者は行動範囲が限られているので、1ヵ所でほぼ需要を満たせる商店街でないと、なかなか足を運んでくれません」

共働きが主流のいまは、仕事帰りに立ち寄る女性客が多い。その時間帯も、昔よりかなり遅くなっている。にもかかわらず、昔どおり18時頃に閉店してしまう店が多いことも問題だ。大和さんが「営業時間を延ばしてほしい」と各店に頼んでも、店主がすでに高齢で「体力的に難しい」と断られるケースが多いという。

「東京23区内に限定すると、女性の8割が専業主婦ではなく職を持っている。そのニーズを考えると、24時間365日営業してくれるスーパーがあれば『夜でも商店街に行けば何とかなる』と思ってもらえます。スーパーは商店街の敵と思われがちですが、実は商店街の弱点である土・日営業や深夜営業を補完してくれる存在として必要だと考えています」

千葉大・環境デザイン研究室との二人三脚

さらに、商店街の「持続可能性」を考えたとき問題なのはソフト面だったという。とくに高齢化などが原因による人手不足は深刻。だが、近隣に千葉大学・墨田サテライトキャンパスとiU情報経営イノベーション専門職大学という2つの大学ができたことで、事態が好転していく。

「たとえば商店街で何かイベントをしようとしても、商店主が高齢者夫婦だと昔のように『店を息子に任せて参加する』ことができません。そんな状況下で、2つの大学の先生方や学生さんたちとの協働体制をつくれたのは、とてもありがたかったですね」。

商店街事務局は、大学生たちとの協働体制で3つのプロジェクトを発足させた。

ひとつは「キラキラきっずくらぶ」。約2年前から、千葉大学工学部・環境デザイン研究室の原寛道教授とそのゼミ生が中心となって、商店街のカフェや店の軒先を借り、子どもたちの交流の場となるワークショップなどを行っている。

たとえば、地元の小学生が廃材や色紙を使って好きなものを製作、それを子ども通貨『ポン』で売買するという、疑似商売体験などだ。現在は、商店街の裏道の空き店舗を週に2回のペースで借りて開催しており、ときには規模を拡大し、商店街の枠をはみ出したイベントも行っている。

千葉大学の原教授とゼミ生たちが主催する「キラキラきっずくらぶ」。千葉大学の「地域に開放するキャンパス」という方針のもと、原教授が商店街事務局に「ぜひやらせてほしい」と依頼してきたという。

2つ目は「グリーンズ@商店街」。商店街にあるコミュニティスペースを拠点に、千葉大学の学生がハーブなどの水耕栽培を実施。収穫物を商店街のカフェやパン屋など3店舗に納品している。

3つ目は「デザデザ橘商店街実行委員会(デザ商)」の設立だ。商店街と学生をつなぐ学生団体を立ち上げ、学生のアイデアを商店街づくりに生かす活動を展開している。後編で述べる商店街の大きなイベントでも、実働部隊として強大な戦力となっている。

こうしたソフト面とハード面の環境づくりと並行しながら、商店街はいよいよ本丸ともいえる「新規出店の促進」へとコマを進めていく。

―――後編に続く

text:奥津圭介

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