アメリカ初の“MSC認証”寿司レストラン 「海を守る矜持」
プラスチックごみや過剰漁獲など、海にまつわる問題は山積しています。世界でたったひとつの海だからこそ、美しく変えたいという思いは万国共通。今回は、アメリカが取り組む、海のための活動を紹介します。
数十年後、われわれ人類は
魚を食べられなくなる!?
数十年後には魚が食べられなくなる——。にわかに信じがたいが、気候変動による生態系の変化や過剰漁獲によって、それが現実のものとなるかもしれない。実際、魚貝類をはじめとする海洋生物の数は、年々、急ピッチで減少傾向にあるのだ。
そんななか、持続可能な漁業をと考えられたのが「サステナブル・シーフード」だ。基準となるのは「MSC認証」。「MSC」とはMarine Stewardship Council(海洋管理協議会)の略で、厳正な環境規格に適合した漁業で獲られた水産物であると認められた証。つまり「海のエコラベル」だ。
アメリカのポートランドでは、サステナブル・シーフードに関する考えは浸透していて、2008年にはMSC認証を得た水産物だけを使用したアメリカ初の寿司レストラン「Bamboo Sushi」がオープンし、注目を集めた。
その後、Bamboo Sushiは、ポートランド近郊を含むエリアに5店舗、それ以外のエリアにも5店舗展開している。FRaUが取材したポートランドのダウンタウンの店は、ランチタイムの開始とともに、あっという間に満席になった。クリストファー・ロフグレンCEOは語る。
「私たちは、認証を受けた最初のサステナブル寿司レストランではありますが、サステナブル・シーフードを調達することの大切さは、それ以前から専門家が指摘していました。私は、海の持続可能性を、自分が好きな寿司で実践できないかと考えました。サステナブル・シーフードを寿司ネタに取り入れるためには、サプライヤーとの関係性が非常に大切。常にオープンなコミュニケーションで、信頼関係を築くことを第一にしています。そして、供給過程のすべてを明確にすること。環境的に責任ある方法で獲られ、届けられた新鮮なシーフードであると断言できれば、結果として、私たちも自信を持ってお客様に提供できます」
ロフグレンCEOは、提携するオレゴン州やアラスカ州の漁師のもとを訪ね、水産環境を現場から学んでいる。さらにMSCとパートナーシップを結ぶことで、漁師が認証を維持するためのガイドラインに従って漁業をしているか、常に確認をすることができる。
店のメニューづくりのために、世界中の海洋生物の種類や、その漁法、捕獲可能な数など、専門機関に海洋学的なデータをもらう。
「魚種の全体数を把握するために、何百種とリサーチしてきた『シーフード・ウォッチ・プログラム』をはじめ、どの種は獲るのを避けるべきで、どの種は供給しても問題ないのかのベースラインを確認します。さらに環境に適合した漁業や方法を徹底し、MSCなどの認証を得られるか、循環システムを損なう数量以上捕獲をしていないかにも気を配っています」
どんなに人気の魚でも希少性が高ければ提供しない。養殖により、海や河川を汚染している場合、その魚も取り扱わない。
「MSC認証を取得することは特別なことではありません。お客様に安心して食べていただくためにも、世界中のレストランに認証を知ってもらいたい。環境問題について各レストランの知見を高めてもらうためにも、MSC認証は必要だと考えます」
Bamboo Sushiに足を運ぶ客の約80%が、この店の寿司がサステナブル・シーフードであることを理由に来店しているという。
「年齢も客層もさまざまですが、共通項があるとすれば、自分の選択する食材が、世界にどのような影響を与えるかを理解して、行動している方たちだということ」
この先、魚を食べ続けていけるかどうか——それは、私たち次第なのだ。
●情報は、FRaU SDGs MOOK OCEAN発売時点のものです(2019年10月)。
Photo:Norio Kidera Text:Chizuru Atsuta Coordination:Bronwyn Nakamura Edit:Chizuru Atsuta