気持ちがいい日、行きたい日だけ! YouTuber「どんぐりさん」の、がんばらない畑仕事【後編】
茨城での移住生活を伝えるYouTube『どんぐりさんのsurprise gardening』が人気を博しています。70歳を目前に、夫とともに東京から茨城の古民家に移住した「どんぐりさん」こと、横田晶子さん。そのきっかけは、畑にハマったことでした。第2の人生として、畑をはじめることに興味を持っている人は多いもの。未経験から畑ライフにハマったというどんぐりさんの、「意外と大変じゃない」という土いじり生活をレポートします。【後編】
草刈りが、こんなに楽しいとは
どんぐりさんの朝は早い。5時ごろ起きると、まず古民家(自宅)の雨戸を開け、庭に出る。ひととおり花や木を見て回った後は、歩いて15分ほどのところにある畑に行くことが多いという。
「畑には、『行けたら行く』という感じですね。『行かなきゃ』という義務感はいっさいありません。でも、行ったら行ったで楽しくなって、何やかんや作業してしまうんですけど。それから家に戻って、朝ご飯も食べたり食べなかったり。そしてまた何やかんやしているうちにお昼になって、お昼ご飯をつくる。それがそのまま夜ご飯になることもあります。その後は散歩をしたり、庭いじりをしたり、縫いものをしたり。気分と天候によって、いろいろなことをしています。
あとは、YouTubeの撮影と編集ですね。畑は川の近くにあるので、朝は靄(もや)がかかるんです。それが本当にキレイで。これを撮影したくて早起きすることもあるくらい。こちらに来てから、夜型からすっかり朝型生活に変わりました。健康的になったと思います」
さえぎるものなく望める青空。ビルが立ち並ぶ都会では目にできない景色だ
「移住の決め手となった」ほど、どんぐりさんがハマったという畑仕事。「やってみたい」とあこがれを抱いている読者も多いだろう。が、経験も知識もない、かなりの肉体労働っぽくて大変そう……と、腰が引けてしまうのが実情ではないだろうか。が、心配はご無用。どんぐりさんも移住するまで畑仕事の経験はゼロだったのだ。
「行けるときは、午前と午後と2回畑に行っています。大変そうに聞こえるかもしれませんけど、むしろ行きたくて行っているんです。“畑セラピー”とでもいうんでしょうか。雑草を刈ったり、野菜が成長するのを見ていたりするだけでエネルギーをもらえる。落ち込んでいるときでも土に触れると回復する、という話を聞いたことがありますけど、すごくわかります。本当に元気になる。草むしりがこんなに楽しいとは、移住するまでは考えもしませんでしたね」
「そろそろできたかしら……」。植えたきり放っていたさつまいもを収穫するどんぐりさん
夫である「松ぼっくりおじさん」こと建文さんも、畑の魅力にすっかり取り憑かれているよう。
「今年(2024年)の夏はね、小玉スイカが獲れたんですよ。放ったらかしにしていたのに、気づいたら茂みの中に実ができていて。スイカなんて自分でつくれると思っていなかったから、実を発見したときはそれだけで感動しました。後で知ったんですけど、スイカの縞模様って、動物に食べられないよう茂みとカムフラージュするためのものらしいんです。植物ってよくできていますよね。後日、茂みをよく見たら、1玉だけじゃなくて5〜6玉あって。すごいすごい!と大喜びして、妻とおいしくいただきました」
“手をかけない畑”がトレンド
そんなふうに、どんぐりさん夫妻の畑はなかば放ったらかし。それでまったく問題がないという。
「いまって、手をかけない畑づくりがトレンドみたいなんですよ。雑草もある程度生えていたほうがいいそう。今年の夏は水不足だといわれていましたけど、草があると意外と水分が保たれるみたいで。朝露もつくので、さほど枯れたりしませんでした。それに、草なんて抜いてもどうせまた生えてくる。だから表面だけ刈って、そのまま放置して肥料にしてしまうのがいいというんですね。そんなふうに楽にやっていく方法もあるので、興味があるなら、ぜひはじめてみてほしいと思います。本当にオススメですよ!」
畑の魅力について熱弁するどんぐりさん
どんぐりさんの畑は、近所の人たちの畑に囲まれている。いつも誰かが近くにいるから、畑仕事でわからないことがあれば、すぐに教えてもらえる。
「いまはいろんな畑のやり方を紹介したYouTube動画もあります。だから自分の好きなやり方を採用したらいいんじゃないでしょうか。天気の悪い日の畑作業は大変そうと思われるかもしれませんが、畑って雨の日は放っておいてもいいそうなんです。むしろ、土壌に悪影響を与えるので入らないほうがいいらしい。だから私は、気持ちのいい日だけ作業しています。
好きなように、好きなものだけ植えて放っておけばいい。2024年の夏は、きゅうりの苗を植えておいたら地べたにいっぱいできていたという。
「きゅうりといえば支柱を立てて栽培しなければならないイメージがあるかもしれませんが、あれは形を真っすぐにするため。地べたに放ったらかしておいていいんです! そうしたら冬瓜(とうがん)みたいに大きくなったので、皮をむいてスープにして、おいしくいただきました」
今日の収穫は大根葉。種をまいておいたところぐんぐん育ちはじめたので、小さいものだけ間引いてきた。炒めて食べると最高だとか
どんぐりさんが筆者にふるまってくれた昼ご飯。豚肉と自家製野菜の煮込み、カキとひじきの炊き込みご飯。畑をはじめてからシンプルな和食を作る機会が増え、味覚が鋭敏になったそう
「不安になってるヒマがない」
松ぼっくりおじさんによると、茨城県は全国でもっとも、一宅地面積が広いんだそう。つまり、それだけ土地に余裕があるということであり、畑もはじめやすいのだ。
「ウチの畑周辺にも、たくさんの耕作放棄地があって、畑をやってくれる人を探している農家もあります。ちなみにわが家も、畑とは別に田んぼも持っているのですが、これは自分たちでは管理しきれなくて貸し出しているんです。借りている方は、そこで無農薬のお米をつくっていて、収穫の何割かをうちに納めてくれる。安全でおいしいお米をいただけて非常にありがたく思っています。
ほかの土地のことはわかりませんが、茨城は地価が安いのに東京の通勤圏なので、移住先としてはオススメです。住む人がいない家もたくさんあるようなので、東京とは別に家を持って、二拠点生活を送ることも可能なんじゃないかな。私は乳母車(うばぐるま)の製造販売会社を運営しているんですけど、ネット販売がメインで。たまに打ち合わせのため東京に行く程度なので、移住してからも仕事はまったく変わりなくできています。まさに、時代を先取りしたライフスタイルかなと思いますね」
「茨城は土地が余っているので畑をはじめたい人にはオススメ」と、松ぼっくりおじさん
どんぐりさんの畑のまわりにも、耕作する人がいない畑がたくさんあるという
「このままずっとこの生活を続けていきたい」と語るほど、いまの移住生活が気に入っているどんぐりさん&松ぼっくりおじさん夫妻。
「できればあと30年ぐらい、このまま暮らせたらなと思いますね。でも正直、いまはやることが次から次へと出てくる日々なので、先のことはあまり考えていないんです。お庭や畑のことはもちろん、軒下にハチの巣ができたから撤去しなきゃとか、近所の人がお野菜を持ってきてくれたりこちらが持っていったり。そうしたらアッという間に半日が過ぎていたりします。本当はもっと縫い物とかもしたいんですけど、なかなか時間がなくて。でもそれでいいのかも。東京にいたころはやることがなくて、雨の日などは余計なことを考えて不安になったりしていたんです。いい意味で、生活に追われていますね」(どんぐりさん)
ということで最後に、長く移住生活を楽しみ続けるために、今もっとも必要だと感じていることは何か、どんぐりさんに教えてもらった。
「やはり健康第一。私は2024年の春、ヒザを悪くしてしまって思うように掃除や土いじりができなくて苦労したんです。だから、ちょこちょこ動きつつも、やりすぎないようにしなくては、と思っています。でも畑に行くとつい楽しくなって、なんやかんやとやってしまって、気づけばあたりが真っ暗になっていたりするんですけど。そうするとまた星がキレイだなあ、なんてうっとりしたり。田舎での移住生活は飽きることがありません」
「移住してから、毎日が楽しくて仕方がない」と幸せそう
text:山本奈緒子 photo:萩原はるな
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