“ただの雑草”は宝の山!? 飛騨の山奥で出合った「野草研究グループ」とは?【第2回】
ドクダミ汁をたっぷりつかった謎のスイーツなど、薬草料理の粋を味わった前回。そう、岐阜の最北端に位置する飛騨市を訪ねて歩けば、不思議に満ちた食や暮らしが現れるのです。山の恵みを余すことなく取り入れる人々の知恵と300年の伝統に触れる飛騨の山旅第2回は、薬草のお茶づくりに挑戦します。
70代とは思えない、お肌ツヤツヤのお姉さまたち
ログハウス風の、なかなかオシャレな「飛騨市林業総合センター」
前回、「蕪水亭」で「薬草料理」のフルコースを味わい、旅の初めから健康生活にぐっと近づいた気がする。市の面積の9割以上が森林という緑豊かな飛騨市なので、至る所で薬草は採取できるのだが、市の北西部の河合町に20年も前から薬草を育て、それで薬草茶をつくってきた人たちがいると聞いて、ぜひ会いたくなった。
河合町へは東京でお目にかかった飛騨市まちづくり観光課の石原伶奈さんが連れていってくれることになった。蕪水亭のある古川町から宮川の渓谷沿いに車を走らせると、30分ほどで山あいの河合町に到着した。ログハウス風の建物から、お母さん2人が「河合町にようこそ!」と元気に飛び出してきた。
下出ひで子さんと原貴代子さんだ。「私たち、メイドイン河合! 生まれも育ちもここです」と胸を張るいいコンビな2人は、ともに70代とは思えないほど肌がつやつやだ。「せっかくだから野草の散策コースを案内するからついて来て!」と手招きされたが、だいぶ年下の私が追いつけないほど歩くのが早い。そして猛烈によくしゃべる。
下出さん(左)と原さんの健脚ぶりに、ついていくのがやっと
平成9年(1997年)に旧河合村役場から「薬草を育ててみては?」と声をかけられたのをきっかけに、河合町のお母さん4人で「かわい野草茶研究グループ」を結成。薬草ではなくあえて身近な「野草」をグループ名につけたという。薬草を摘んで乾燥させてお茶にしたところ評判がよく、いまでは市内の店舗や薬草イベントなどで販売も行っている。
幹線道路から降りて、宮川の支流である小鳥川沿いののどかな小道へと足を踏み入れる。いたってふつうの農道なのだが、何歩も歩かないうちに「ほら、これが葛(くず)! のんべえの人は二日酔いにいいよ~」「このピンクの花はゲンノショウコ」「この丸い葉っぱはアズキナ、タラの芽も」と次々と見つけてはつまんで見せてくれる。
雑草しか生えていないと思える道も、お母さんたちにかかれば宝の山に見えてくるから不思議だ。動脈硬化の予防にいいとされるメナモミに、イボやニキビに効果があるといわれるスベリヒユ、目によいとされるオオバコに、「畑のカルシウム」と呼ばれるヨモギ、和紙にもつかわれるコウゾ、関節にいいらしいイノコズチなど、あっという間に10種類以上の薬草を見られた。ついでに猪が掘った穴と、よく里に下りてくるらしい熊の対策として切られた桑の木も紹介され、だいぶワイルドな土地であることもわかった。
「河合は標高が600mあり、雪も多い地区なの。冬は音も色もない世界。山の黒と雪の白だけで水墨画みたいだよ。小さいころ、近所のおじいさんたちが農作業のときにドクダミのお茶なんかを持ってきていて、『飲んでいけよ!』って。ドクダミ茶は苦かったけど、お菓子も一緒にくれるから(笑)。まあ、当時は食べ物があまりなかったから、薬草だけじゃなくヘビやハチの巣やメダカとって食べたりしていてね」
そんな話に相槌を打ちながら先ほどの建物まで戻ると、「次に私たちの畑に案内しまーす!」と下出さん。畑? ジャガイモやニンジンでも育てているのかと思いきや、なんと畝(うね)をつくり、農業用の黒ビニールまで被せた本格的な雑草…いや立派な薬草畑に驚いた。こんなもの、いくらでも道に生えているのになぜ?
「そりゃ、もっと歳をとったら歩くのがしんどいもの。だからすぐ近くで採れるように、まだ動けるうちに野草の畑をつくっておこうって。あっちがオオバコ畑、ヨモギ、ドクダミ、タンポポ、そしてメナモミ。みーんなうちの野草茶の材料です」
これが野草の畑だ!
その会自慢の野草茶は、「手摘み野草茶」と「手摘み野草茶 まろやか葛ブレンド」の2種類だ。飲みやすいよう、ほうじ茶や大麦、ハトムギのなじみのある味をベースに、河合町で採れたクマザサ、オオバコ、クコ、スギナ、クワの葉、ドクダミを入れている。飲んでみると、薬草独特の苦みもなく体にスッと入るやさしい味わい。全国にファンがいるらしい。
「私たちが野草茶をつくった後に、村上先生(前話に登場した、元徳島大学の薬学博士、村上光太郎さん)がこちらに来て『空気がよく水はミネラルが多いから、河合町の薬草はいい』とおっしゃって。『これもいいけれど、ひとつ自分用に調合してみない?』と、さまざまな野草の入ったタッパーと秤を持ってきてくれたんです」
飲みすぎに効果あり!? マイ野草茶をブレンドする
野草茶づくりの講師は畑美貴さん(右)
マイ野草茶づくりを指導してくれるのは、メンバーのひとりで京都から嫁いできた畑美貴さん。会で一番の若手である。野草茶を日々、飲んでいるおかげかどうかはわからないが、髪が黒々として背筋がピンと伸びていてうらやましい。
さてズラリと並べてくれた乾燥した野草はどれもそれぞれ味も違えば成分も違う。私の体の悪いところを言い出したらきりがないが、畑さんのおすすめの二日酔いによいとされる葛をたっぷりとブレンドしてみた。7gの野草を詰めたパックを煮出すと、2リットルの野草茶ができるという。ああ、これで安心して好きな日本酒をとことん飲める。
さまざまな野草、薬草をブレンドしていく
もうひとパックは何にしようか。寝不足で胃腸が荒れ、よく口内炎ができる私は、殺菌作用があるらしいクマザサを多めに入れてみた。いや、その前に夜更かししなければいいのだが。先ほどの葛パックと間違わないよう小さく印をつけた。
会は結成25年を超えている。9月におこなわれた「全国薬草フェスティバルin 飛騨」では、飛騨市の市政20周年を記念した新しいお茶を発表するなど、下出さんたちは新商品開発にも張り切って取り組んでいる。
薬草を毎日、飲んでいるから元気なのか、薬草に関わって毎日、仕事があるから元気なのか。70代の先輩方のありあまる元気を分けてもらいつつ、ブレンドした野草茶パックを手に山を降りた。
抜いても抜いてもめげずに顔を出す野草。裏を返せばそれだけ生命力が強いのだ。その生命力を毎日の暮らしに役立てる。村上先生の「薬草で日本を元気にしたい」という夢は飛騨の地にどっしりと根を下ろしている。
「ひだ森のめぐみ」で気軽に薬草体験を!
ひだ森のめぐみ。もちろん野草茶も売っている
薬草めぐりの最後に、気軽に薬草体験ができる飛騨古川駅の近くの施設、ひだ森のめぐみを紹介したい。こちらでは薬草茶などの販売のほか、薬草を使った茶の試飲や蒸留体験、薬草七味づくりなどのワークショップを気軽に体験できる。店の中庭には数十種類の薬草が栽培されていて見学も可能だ。「かわい野草茶研究グループ」の野草茶もここで買える。
取材・文・写真/白石あづさ
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