フリーライター武田砂鉄が選ぶ「多様な働き方、生き方に気づかせてくれる本」
常識にとらわれない自由な働き方を知り、仕事の裏側に隠れた問題と向き合う。働くこと、仕事のことを考える、本をフリーライターの武田砂鉄さんに聞きました。
たまに働く、素敵な移住
17万円を握りしめて台湾に移住、あまり働かずに、なかば隠居状態で暮らす。行き当たりばったりでなんとかして生活を続けていくさまにヒヤヒヤしつつも、そこで出会った人たちが、とにかくよき方向に導いてくれる。奇跡の連続ではなく、暮らす人が実に当たり前に親切心を持っている。「日本で、生きてるだけなのになぜか人格否定される、暴言を吐かれるなどする方は、いちど台湾に来てみては」とのこと。たまに働く、という暮らしに焦がれてしまう。
ブラックな社会と向き合う
ブラック企業で働いていたとしても、そう簡単にやめられない。なぜって、やめたとたん、生活が立ち行かなくなるから。立ち行かなくなるのはその人のせいではなく、社会の仕組みのせいなのに、あたかも、その人のせいであるかのようなプレッシャーをほうぼうからかけられる。ブラック企業で働き、心を痛め、生活保護を受給しながら、あらためて立ち上がろうとするひとりの女性。「自分が必要とされる」とはどういうことか、「想像力の貧しい社会」で戦った記録。
農家で働く女性たちの声を聞く
専門紙「日本農業新聞」で、1967年から続いてきた投稿欄に寄せられた女性たちの声をひもとく一冊に、農家に嫁ぎ、働くことの苦悩が詰め込まれている。一家の財布を握るのが妻ではなく、舅姑(きゅうこ)である場合も多く、学校の運動会や学芸会の前には、小さな万引きが増加したことさえあるのだという。夫を早くに亡くした妻が「なぜ一度でも『休め』と言ってくれなかったのか」と語る。これまであまり表に出てこなかった働き手の声が、それぞれとても重い。
日本で働くことへの問い
バンコクの高層ビルの一室にあるコールセンターで働く日本人たち。世の中が用意したレールから外れるとなかなか元に戻れない日本を、ひっそりと抜け出してやってきた。タイトルにあるとおり、それは「居場所」を見つける旅でもあった。どこにいようと孤独はまとわりつく。出会った女性に入れ込む男性の姿は情けなくもあるものの、彼は次第に人間みを取り戻していく。日本で働くとはどういうことなのかという根源的な問いが、バンコクの地で投げられている。
PROFILE
武田砂鉄 たけだ・さてつ
フリーライター。「女性自身」(光文社)など雑誌をはじめ、さまざまな媒体に連載を持つ。著書に『わかりやすさの罪』(朝日新聞出版)、『紋切型社会』(朝日出版社)がある。
●情報は、FRaU SDGsMOOK WORK発売時点のものです(2021年4月)。
Illustration:Naomi Nose Text:Tokyofumi Makino , Mick Nomura , Satetsu Takeda , Iku Okada Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子