ユナイテッドアローズ栗野宏文「SDGsブランドの立ち上げは、SDGsになるのか?」【前編】
ファッションに長年携わり、2020年夏に出版された『モード後の世界』も話題を呼んだ栗野宏文さん。移り変わりが速く、社会的な影響力が大きい業界において、サステナビリティをどう捉えているのでしょうか。辛口でラジカル、かつ愛にあふれたメッセージをお届けします。
ファッション界における
サステナビリティの潮流
サステナビリティについては僕より詳しい人がたくさんいるので恐縮なのですが、まずは自分が考えるサステナブルな格好で来てみました。コートは1982年に僕が初めて買ったバーバリー。さんざん着た後で一度奥さんに譲って袖を短く詰めたのですが、最近また自分でも着たくなった。お直し屋さんと相談して、短くなった袖に生地を足して、解いた跡はそのまま残しました。だから38年間現役というわけです。
セーターは僕が一番好きな一枚で、1997年のコム デ ギャルソン・オム プリュス。パンツは10年ほど前のkolor。靴も30年ほど履き続けています。僕も長生きで67年物なんですけど(笑)、持続可能性ということを考えると長く着ることもサステナブルだと思うんです。
著書『モード後の世界』の中でも書いているのですが、コシェのデザイナーであるクリステル・コーシェは、シャネルのカール・ラガーフェルドのもとで10年間働いたキャリアがある。彼女と話をしたときに、「シャネルの服のように、顧客達が50年ぐらい着続けるのもサステナブルの本質」と言っていたことにとても共感しました。大事なのは大切に長く着ることだったり、そういう身近なことじゃないかなと思うんです。
ファッション業界の新聞を読んでいてちょっと危険だなと思うのは、SDGsブランドを始めましたというような記事。「うちもサステナブルブランドを始めないとやばいな」みたいな話を聞いたりもしますが、辻褄が合ってるようで間違っていると思う。新たに服をつくること自体が環境に負荷を与える可能性大なので、SDGsをテーマにしたブランドの立ち上げは解決策になるのか? と。
若手デザイナーの支援を目的に2013年に創設された「LVMHプライズ」の審査員をずっとやっているのですが、7回目を迎えた今回は、候補者20組の内、半数はなんらかの形でSDGsに取り組んだ作品を出していた。ベスト8のなかでも6ブランドほどだったと思います。
前回ファイナリストに選ばれたロンドンのべサニー・ウィリアムズは、サステナブルな服づくりだけでなく、製作を薬物やアルコール依存症の人の更生施設と協業したり、社会的弱者の支援にも取り組んでいる。それでも「自分が新しくものをつくるのはありなのか? 世の中にムダを出しているのではないか」と言っていました。
ファッション業界は地球で2番目、エネルギー業界の次に、環境負荷を与えている産業なので、真剣に取り組まなければ、世の中が許してくれないと思います。
素材のことで言うと、パリで毎年開かれるテキスタイルの見本市「プルミエール・ヴィジョン」をこの10年ほど見ていますが、5年ぐらい前からサステナブルな生地でないと発注されないというほど重要な要素になってきている。糸の原料である綿、麻、羊毛から、その先の加工方法、染め方、洗い方、そのためにつかわれるエネルギーの内容など、様々な過程での生産背景がわかるように開示され、マークもつけられる。最近では、食用の羊と毛を刈る羊を一緒にしようという運動をしている若い人たちにも会いました。
▼後編につづく
PROFILE
栗野宏文 くりの・ひろふみ
1953年ニューヨーク生まれ。東京、世田谷で育つ。大学卒業後77年からファッション業界に身をおき、89年に現名誉会長の重松理氏らと共に株式会社ユナイテッドアローズを設立。2008年常務取締役を退任後、上級顧問クリエイティブディレクション担当。2020年8月に初の著書『モード後の世界』(扶桑社)を刊行。
●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Photo:Norio Kidera Text & Edit:Naoko Sasaki
Composition:林愛子