水素燃料電池でモビリティを! 飲食店の生ごみでお湯を! 「高輪ゲートウェイシティ」はゼロカーボンシティの最前線だ!!
2025年3月にまちびらきを果たし、9月には商業施設「ニュウマン高輪」がオープン、2026年3月28日にグランドオープンを迎える東京の新名所「TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ=以下、シティ)」。開発主のJR東日本は、ここを「100年先の心豊かなくらしのための実験場」と位置づけ、さまざまなサステナブルな試みをおこなっています。最先端のレストランやショップ、首都圏初のラグジュアリーホテルのオープンなどが話題のまちを支える、地下のバイオガス施設にも潜入! 再生可能エネルギー活用の最前線を見てきました。
目指すは“エネルギーの地産地消”
3月27日に“まちびらき”を果たしたシティ。“長さ”は南北1.6km、敷地面積は95ヘクタール、JR高輪ゲートウェイ駅や4つの巨大なビルなどを抱える、まさにビッグシティだ。このまちでは、水素やバイオガスなど多様な再生可能エネルギーを活用して、ヒトや地域、地球にやさしい環境先導型のまちづくりを目指している。今後、JR東日本がさまざまな駅や駅ビルを再開発する際の“実験場”でもあるそうだ。
まち全体のエネルギーマネジメントを担当するのは、JR東日本グループの「えきまちエナジークリエイト」。災害にも強い自立&分散型のエネルギーネットワークを構築し、シティのCO2排出量実質ゼロを目指すという。

シティ内のバイオガス施設の位置を説明する、えきまちエナジークリエイトの鈴木孝子社長。「皆さんと一緒に具体的な実装にチャレンジしながら、脱炭素のまちをつくっていきます」と意気込みを語る
100年先を見据えた鈴木社長らの挑戦のひとつが、水素エネルギーの利活用だ。水素エネルギーは、利用時にCO2を排出しないクリーンなエネルギーとして、世界中で注目を集めている。まずは、高輪ゲートウェイ駅に「純水素燃料電池システム」を設置。千葉県市原市で太陽光エネルギーによって製造された水素ガスを、カセット状の水素吸蔵合金に吸着させ、それをシティまで運んで、自動走行モビリティの電源にしているのだ。

高輪ゲートウェイ駅の北側に設置された「純水素燃料電池システム」。カセット状の水素吸蔵合金をこれにセットしてつかう

シティで活躍中の、いつでもどこでも乗り降りできる、かわいい立ち乗りタイプ自動走行モビリティ 「iino(イイノ)」。この動力にも水素電池がつかわれている
今後は燃料電池の利用だけでなく、シティのなかで水素をつくる計画だという。ゆくゆくは、高輪ゲートウェイシティ由来のエネルギーで湯を沸かし、施設内の給湯や暖房などにつかおうとしているのだ。さらには水素由来の電気や熱エネルギーを近隣にも供給し、基幹エネルギーに育てたいと鼻息も荒い。

建物の内外に、地域に根ざしたグリーンを配置。今後開業予定の「THE LINKPILLAR 2」の地下には国内最大級の蓄熱槽を設置して熱をため、空調に活用していくそうだ
地下には生ごみからガスをつくる工場が!
もうひとつの目玉は、東日本初のビルトイン型バイオガス施設だ。ここでは、再生可能な生物由来の資源を活用して熱が生成されている。レストランやホテルから出る生ごみを利用し、発酵させてガスをつくっているという。食品廃棄物を7割減らせるだけでなく、生成されたガスを施設内のエネルギーとして活用。ビル屋上にあるバイオガスボイラーで湯をつくり、超高級ホテル「JWマリオット・ホテル東京」の給湯につかうそうだ。
今後、レストランやホテルがフルオープンすると、シティ全体で一日4トンほどの食品残渣(ざんさ)が出る見込み。これらをガス化すると、700㎥のバイオガスがつくれるという。一般的な4人家族が1ヵ月につかう都市ガスは約30〜40㎥。700㎥はその1年半〜2年分になる。かなりのエネルギー量だ。
生ごみからバイオガスをつくるバイオガス施設は、複合棟「THE LINKPILLAR 1 SOUTH」の地下にある。シティ内からごみ収集車で集められた生ごみは、駐車場の一角にある「生ごみ投入ホッパー」に投入され、地下の粉砕分別機に送られて、ビニールなど異物を取り除いたのち細かく砕かれていく。

一日4.3トンまでと、大量の生ごみが投入できるホッパー。駐車場の一角にあり、使用時にはシャッターが下りて駐車場に臭気などが流れないよう配慮されている

バイオガス施設の説明をするJR東日本環境アクセスの大山稜介さん。「発酵槽で、菌がもっとも元気になる35〜37℃に温めます」

バイオガスが貯留される半球のガスタンク
粉砕された食品廃棄物にはリサイクル水が加えられて「投入調整槽」にためられる。それを「バイオガス発酵槽」に入れ、酸素のない環境で温めて発酵させると、バイオガスができるのだ。ビルの地下にあるこれらの施設は“ピカピカできたてのガス工場”といった感じで、隅々までクリーンだ。ただ、生ごみを扱うので、そこはかとなく生ごみ臭は漂う。取材した日は脱臭設備が故障していたそうだが、今後、さらなる臭気軽減に取り組んでいくそうだ。

ビルの屋上にある温水ボイラー。ここでバイオガスが燃やされ、湯を沸かす。屋上には太陽熱で湯をつくる設備も併設されている
ガスタンクにためられたガスは屋上の温水ボイラーに送られ、ホテルでつかわれる湯の約10%を供給する。地下から屋上にわたる壮大なバイオガス施設だが、さぞかしコストがかかるのでは?
「あくまで『外にごみを出さずに活用しよう』という試みなので、利益を出そうとは思っていません。このまちでは、都内初のチャレンジをたくさん計画中。バイオガス施設もここで検証と課題解決をくり返し、ほかの再開発エリアや大きな駅など、食品残渣が大量に出る場所にも導入していきたいですね」(前出、鈴木さん)
Photo & Text:萩原はるな
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