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世界にひとつだけの手づくり品ばかり! 信州「善光寺びんずる市」は古くて新しい!!
世界にひとつだけの手づくり品ばかり! 信州「善光寺びんずる市」は古くて新しい!!
FEATURE

世界にひとつだけの手づくり品ばかり! 信州「善光寺びんずる市」は古くて新しい!!

長野市にある国宝「善光寺」の境内で、毎年4月から12月までの毎月第2土曜日に開催されている手づくり市があります。2013年に始まって以来、境内をにぎわせてきたのが「善光寺びんずる市」。いまや、多いときには200を超えるブースが連なる人気のハンドクラフトマーケットとなり、この4月には過去最多となる221店舗が出展しました。回を重ねるごとに活気は増すばかり。その魅力は、いったいどこにあるのでしょう。【前編】

既製品がひとつもないクラフトマーケット

創建以来、約1400年にわたって信仰を集めてきた信州・善光寺。日本最古といわれる仏像を御本尊とする古刹(こさつ)で、その本堂は国宝に指定されている。数え年で7年に一度行われる「御開帳」の期間には、わずか数ヵ月の間に600万人以上もの参拝者が来訪。日本を代表する霊場として名をはせるいっぽうで、24時間開放されている境内では、散歩コースや通学・通勤路につかう人の姿が日常的に見られる。「初詣は善光寺さんへ」「七五三や結婚式も善光寺さんで」という長野市民は、実はとても多い。それほど、地元では親しまれている存在なのだ。

びんずる市は、そんな“善光寺さん”の境内でおこなわれている。開催当日は敷地奥まで各店ブースがズラリと並び、そのテント内には布製のバッグや帽子、レザー小物や木工芸、陶磁器、アクセサリーといったアイテムがそろう。ジャンルこそ多岐にわたるが、出品物はすべて手づくりのオリジナル作品。既製品はひとつもない。

善光寺の境内と隣接する「長野市立城山公園」で開かれているクラフトマーケット。趣味や副業で作品づくりを楽しむ人からプロのクラフト作家まで、全国から個性豊かななつくり手が集う

クラフト品に限らず、パンやスイーツ、コーヒーのほか、ジャムやジュースといった手づくりの加工品、夏や秋には出展者たちが育てた野菜や果物も並ぶ

マッサージや占い、似顔絵などのサービスも手しごとの結晶として提供が認められている

手づくり品に限定しているのは、つくり手との交流やご縁を大切にしてほしいから。つくり手は作品に込めた思いやストーリーを直接伝えられ、買い手はたとえばほしいサイズやカラー、デザインの物が店頭になくとも、オーダーメイドのリクエストができる。

「つくり手からすれば、自分たちの作品を見てもらうだけでうれしいわけです。手にとってもらえたら、さらにありがたい。たくさんの人が来てくれて、お客さんと会話ができて。そのうえ、自分の作品を気に入ってもらえて、買ってもらえたら……こんなに励みになることはありませんよね。出展者の皆さんからは『ここに来ると、また制作意欲が湧くのよ』という声をたくさんいただいています。お気に入りの逸品と出逢えた方も、それが世界にひとつのオーダーメイド作品ならば、喜びもひとしおでしょう」(実行委員長の箱山正一さん、以下同)

自分だけの逸品をオーダーし、できあがりを待つワクワクした時間もまた、買い手に幸せを提供してくれる。

「過去には、木製のスプーンやフォークを販売していたつくり手と話が盛り上がって、大きなダイニングテーブルをつくってもらうことになった、なんてこともありました。まさに出会いが結んだご縁ですよね」

つくり手の人となりに惹かれ、大きな注文につながる例も珍しくない

地元のリピーター客が多くを占めるものの、なかには毎月新幹線に飛び乗って県外から駆けつける熱烈なファンもいるそう。もちろん、本堂をお参りしたその足でマーケットに立ち寄る観光客は数知れない。

「つくり手さんから直接買わせてもらうと、ことさら丁寧につかおうっていう気持ちになるんですよ。つかいこむほどに味も出ますし、『壊れたら捨ててまた買えばいいや』という気持ちにはとてもなりません」

箱山さんの実家は、善光寺の西側、西之門町で100年以上続く手づくりのふとん店。生地を縫う母親の姿や、綿を入れてひと針ひと針縫う職人の手仕事を子どものころから見てきたことから、「ものづくりで地域を盛り上げたい」という思いは人一倍強い。

「ご縁をつなぐ場所」だから、再出展率は8割超え!

いまでこそ県外からもリピーターが駆けつける人気イベントとなったが、その前身となったのが、箱山さんら地元有志が2009年に立ち上げた「西之門市」だ。

「かつて、西之門町を含む門前エリアには、それはそれはにぎやかな商店街がありました。肉屋も魚屋も八百屋も雑貨店も何でもあって、生活のすべてがそこでまかなえていたんです。1980年代ぐらいまではまだ町に活気があったのですが、高齢化が進み、1店舗、また1店舗と閉まっていって……」

観光客でにぎわう善光寺のすぐ横で、シャッター通りと化していくわが町。

「これからどうなっちゃうの?」

なにか、自分たちの手でできることを始めなければ。この町で楽しく暮らせるように、町が再び輝きを取り戻せるように――。

「昔から屋台や出店の文化が根づいているエリアだったので、毎月第2、4日曜日に定期市を開催することを思いついたんです。当初は手づくり品に限らず、古本あり、古着あり、生活雑貨ありの蚤(のみ)の市みたいな感じでしたが、地道に開催を重ねるうちに、にぎわうようになって。ふだんは閑散としている町に、西之門市の日になると人が集まって人と人の交流が生まれるんですよ。出展者さんがお客さんとの交流を楽しんでくださるのもうれしくて」

実行委員長の箱山正一さん。家業のふとん店を守りながら地域振興のため奔走している。写真のがま口もびんずる市で購入したもの。カバンや帽子など、ほかにもたくさんの手づくり品を購入し、愛用し続けている

5年間地道に続けた活動が善光寺の住職の目にとまり、ある日「境内で市を開いてもらえないか」と持ち掛けられた。「なで仏」として市民に親しまれている“びんずる尊者”(お釈迦様の弟子のひとり)が2013年に300歳になることから、そのお祝い事業として舞い込んだ依頼だった。

「『お寺は、ただお願いをして帰る場所ではなく、コミュニティの場所である』と。『善光寺に来ることによってさまざまなご縁が生まれ、救いの手が差し伸べられたり、人と人がつながっていく――。そういう場所をつくりたい』という言葉をいただき、心を動かされました」

かくして、西之門市は善光寺の境内へと場所を移し、善光寺びんずる市として新たなスタートを切ったのだ。

「たくさんの人が集まる場所なので、善光寺の界隈では昔からひんぱんに市が開催されていたんです。といってもそれはイベント的なものではなく、あくまでも生活の一部としての市でしたが。善光寺の門前は、もともと山と町をつなぐ場所だったんですね。農作物をリアカーに積んで里山から下りてきた人がこの場所でものを売り、必要なものを町で買って山に帰っていく。かつて営まれていた門前の暮らしに立ち返り、新しくはじめるびんずる市は何でもありの蚤の市ではなく、“手づくり市”にしようと決めました」

びんずる市1年目の出展数は70店舗。コロナ禍に1年間開催を休止していた期間もあったものの、評判が評判を呼び、13年目を迎えた2025年、ついに出展数が200軒を突破した。出展者の満足度が高いのもこのマーケットの特徴で、再出展率は8割を超える。ここで出会った出展者たちが、別の場所で集まって親睦を深めたり、違うイベントに誘い合って、ともに参加したり。参加者自らが新たなつくり手を連れてくることも少なくないそうだ。縁の輪は、こうして水面のように広がり続けている。

「善光寺さんは、さまざまな人々を多様に受け入れてきた懐(ふところ)の深いお寺。地域のコミュニティでもあったこの場所で、古くて新しいコミュニティを永続的に表現できたらと思っています」

毎月多くの人が訪れる善光寺びんずる市。地域を盛り上げたい一心ではじまった手づくり市は、ただのにぎわいイベントではなく、いまでは門前暮らしの新たな営みの一部となっている。

善光寺びんずる市 https://www.binzuru-ichi.com/  

Photo:善光寺びんずる市事務局  Text : 松井さおり

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