日本初「ごみゼロ宣言」のまち、徳島・上勝町で生まれた“循環するビール”とは
SDGs先進県として世界から注目されている徳島県。フードハブやゼロ・ウェイストという言葉は、もうご存じでしょう。その言葉を日本に広めた神山町、上勝町は、人口減少で存続さえ危ぶまれる過疎のまちです。にもかかわらず、たえず新しいものが生まれているのはなぜでしょうか。それを支えているのが人と食でした。今回ご紹介するのは、四国でもっとも人口の少ないまち、上勝町。2003年に自治体として日本で初めて、ごみをゼロにするという「ゼロ・ウェイスト宣言」をおこない、世界中から注目を集めている元・限界集落です。ごみをゼロにすることで社会は変わる──。それを本気で信じる人たちを訪ねました。
RISE & WIN Brewing Co.の“モルト残渣から生まれたビール”

徳島市内から車で約50分。上勝町に入って山あいの道路をクネクネのぼっていくと突如、ユニークな形の建物「RISE & WIN Brewing Co.BBQ & General Store(以下RISE& WIN )」が現れる。クラフトビールの醸造所と販売所、宿泊施設も備えたレストラン&ショップだ。内外装に地元の木材や廃材を使用、上勝産ゆこうの皮をつかったビールの量り売りも行うなど、リデュース、リユース、リサイクルを実践し、上勝町を象徴する役割を担っている。

上勝町でなぜビールだったのか、RISE & WINの運営会社であり、地方創生にも携わる「スペック」の小林篤司さんを訪ねると、上勝町の歴史から解説してくれた。

「上勝町は1950年代の戦後復興期に林業で全盛期を迎えましたが、64年の木材輸入自由化で大きく衰退しました。柑橘類による農業で再起を図るも、81年の大寒波で農家が大打撃を受けてしまいました。その後、何もないなら智恵を出そうという発想から(株式会社「いろどり」の)“葉っぱビジネス”が誕生したんです。山の木々の葉っぱを刺身など日本料理の“つま”として出荷することで高齢者の雇用を生み出し、一時期は全国で9割近いシェアを占めました。いまも上勝町を代表するビジネスですが、過疎化にブレーキをかけるにはさらなる一手が必要だったんです」

そこであらためて注目したのが、ゼロ・ウェイストだ。2003年のゼロ・ウェイスト宣言以来、上勝町民は家庭ごみを「ごみステーション」に持ち込み、13品目45種類に分別する。スペックは食品検査をおこなう衛生コンサル事業と同時に上勝町の地方創生にも携わっていたので、このゼロ・ウェイストという強みを活かして何かできないかと考えたのだという。模索するなか、スペック代表の田中達也さんがアメリカのオレゴン州ポートランドに視察に行ったことが契機となった。

「ポートランドにはクラフトビールをつくるブルワリーが何十もあって、お客さんは自分のグラウラーボトルに必要な分だけ入れて持ち帰る。『これこそ、ごみゼロだ』と田中はピンときたようです。スペックは食品衛生のコンサルティング企業なので、菌を培養するバイオ技術をもっている。これを組み合わせたらクラフトビールもつくれる。ただのビールではなく、ゼロ・ウェイストを軸とした上勝町のビールをつくろうと考えました」
サステナブルなブルワリーをめざして

スペックはまちの特産品である柑橘「ゆこう」の皮や上勝阿波晩茶をつかって、この地ならではのクラフトビールを開発し、それを飲めるビアレストランを開業、元製材所をリノベーションした醸造施設「KAMIKATZ STONEWALL HILL CRAFT & SCIENCE」もあらたに上勝町の山中に置いた。そしていま、取り組んでいるのが“循環型ビール”づくりである。一般的にごみとして処理されるモルトなどの残渣(ざんさ)や廃液から液体肥料をつくり、その肥料で麦を栽培、ビールをつくるようになったのだ。

「ビールの製造過程で絶対に出てしまう大量のモルトかすなどの残渣を、うまく循環させられないかと考えたとき、上勝の農家さんたちがつかっている化学肥料が高騰していることが頭に浮かびました。この残渣を液肥にできたら、ごみにせず有効活用でき、農家さんたちに無償でつかっていただくことでサーキュラーエコノミーが実現できます。われわれも、その液肥をつかって上勝の遊休農地で麦を栽培し、ビールにしました。それが新製品『reRise beer』です」

RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store
2015年開店。KAMIKATZ BEERのフラッグショップかつブルワリーで、詰め替えボトルでビールが買えたり、上勝や徳島のものなど環境負荷のない買い物を提案している。
徳島県勝浦郡上勝町 正木平間237-2
●情報は、FRaU S-TRIP 2023年4月号発売時点のものです。
Photo:Mai Kise Text:Nobuko Sugawara(euphoria factory)
Composition:林愛子