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ジビエ料理は、地域課題解決の救世主!
ジビエ料理は、地域課題解決の救世主!
COLUMN

ジビエ料理は、地域課題解決の救世主!

食べることは、生きる基本。だから、子どもは食育を通して、食にまつわる正しい知識を身につけ、生きる力を育みます。でも、大人はどうでしょう? 食を取り巻く状況は日々変わっています。深刻化している貧困問題や、社会全体での取り組みの必要性が叫ばれている食品ロス問題。漁業も、農業も大きな転換期にあります。

未来を考えるには、現状を知ることが大切。野生動物による農作物への被害が深刻化している昨今、駆除した動物の肉を活用するジビエに注目が集まっています。日本ジビエ振興協会代表理事の藤木徳彦さんに伺いました。

有害鳥獣を食卓へ
農家を、地域を救う!

オーベルジュ・エスポワール/長野県茅野市北山蓼科中央高原 ☎0266-67-4250

日本ジビエ振興協会の代表理事を務める藤木徳彦さん。1998年に開店した自身のレストラン「オーベルジュ・エスポワール」はフランスに根づいているようなオーベルジュを目指し、徹底した地産地消を理念としている。

「長野県では冬にお客さまに提供できる食材が少ないのですが、11月から2月の狩猟解禁期間には、野生のシカが獲れます。レストランをはじめた当時、地元の方のジビエに対するイメージは『臭い、硬い、おいしくない肉』というものでした。しかし私が地元で獲れたシカを食べてみたら、とてもおいしかったんです。地元の人たちは、正しい食肉処理や調理方法を知らずに悪い印象を持っているだけではないかと思い、それを払拭するため、ジビエをメニューに採り入れました」

いまやジビエはレストランの看板メニューとなり、全国から多くのファンが足を運んでいる。

調理前のシカのロース肉。やわらかく、きめ細やかな高品質のものを使用する。正しい処理を施された食肉は、安全で臭みもない

あるとき、藤木さんは農家の鳥獣被害について耳にする。農家の協力のもと地元の良質な食材を提供しているレストランにとって、他人ごとではなかった。

「2000年頃から、シカやイノシシなどの野生動物に畑を荒らされ野菜を食べられてしまう被害が増加。年々被害の規模は大きくなり、農家をやめてしまう人も出てきました」

鳥獣被害が深刻になり、長野県では有害鳥獣を駆除することを推奨しはじめる。狩猟期間外でも農業被害を引き起こす野生動物は捕獲することが許され、自治体から報奨金が出ることになった。

「有害鳥獣の駆除を進めているのにもかかわらず、ジビエを提供するレストランのほとんどが、肉はニュージーランドやカナダから輸入している。しかもそれらは、野生の動物を飼育して家畜化した半野生のもの。輸入肉はいつでも手に入るし品質も安定しているので、比較的簡単に使用できます。しかしたくさんのシカを駆除して捨てている一方で、食べるためのシカはわざわざ輸入する。そんな仕組みに矛盾を感じました」

丁寧に肉の筋を取り除く

本来、山に住んでいるはずの野生動物は天敵の減少などで頭数が増え、弱い個体は里に下りてくる。昔に比べて増えている耕作放棄地は、動物たちにとって格好の住まいとなり、里まわりに棲みつく動物も多い。農林水産省の発表によると、令和元年度の鳥獣による農作物被害額は158億円にものぼった。

「鳥獣被害が増えたのは、環境の変化や農村の過疎化など複合的な原因があります。戦後に人間が野生動物の狩猟に関するルールをつくり、手厚く保護をしたことで数が増えすぎたことも事実。そして今度は有害鳥獣捕獲によって、生態系が乱れてしまった例も出てきました。捕獲された動物は、穴に埋める埋設処理か、焼却、野生鳥獣専用の食肉処理施設で処理をすることが決まっています。しかし、なかには捕獲した動物を屋外に放置してしまう人も。その死骸をイタチや猛禽類など雑食性の小動物が食べることによって、小動物の数もどんどん増えていきます。小動物による農作物の被害がなくならないひとつの要因です」

低温でじっくり火を通すのがおいしさのポイント。季節ごとに多様な味わいをもつジビエを、その時期に最適な調理法で提供する

人間が勝手にルールをつくり、数が減ったら保護し、増えすぎたら駆除する。自然界で共存する動物に対し、あまりにも身勝手だと藤木さんは感じている。

「農家を鳥獣被害から守るために捕獲は必要です。しかし猟友会のメンバーは高齢者も多く、動物を捕獲しても穴を掘って埋める作業は重労働。現在、捕獲されるイノシシが年間約64万頭、シカが約60万頭。そのうち利活用できている肉は捕獲したうちのたった9%といわれています。ほとんどの肉が捨てられているのです。ジビエを食べる人が増えれば、もっと多くの肉を流通させることができます。そのためにはジビエは危険、おいしくないというイメージをあらためていただく必要がありました。安心でおいしい肉を提供できるよう、食肉処理施設の衛生管理や肉の処理方法のガイドラインづくりにも取り組みはじめました」

オーベルジュ・エスポワールの人気メニューは、天然ジビエ料理。「お皿の上に命を表現している」と語る藤木さんの料理は、華やかで目にも楽しい

日本ジビエ振興協会の働きかけで、2018年に農林水産省の「国産ジビエ認証制度」が制定された。定められた手順に沿った工程で食肉処理を行っている施設は認証を受けられる。この制度によって外食事業者や消費者にも認証された施設がわかり、安心して食べられる肉を購入できるようになった。大手の飲食メーカーやチェーン店も、ジビエを食材としてつかいやすくなったという。

「レストランで食べる高級食材としてだけでなく、チェーン店や家庭でも食べられるようになれば、ジビエはより身近になります。いまや、給食に採り入れて『命をいただく』食育に活用している学校があるかと思えば、自衛隊の食事にも採用されています。ジビエをブランド化し、特産品にすることで観光誘客につかっている自治体もあります。缶詰などの加工品を地域で生産して雇用創出を図るなど、ジビエの活用は地域の活性化にもつながります」

多くの可能性を秘めたジビエが、地域の課題解決の糸口になるのかもしれない。

PROFILE

藤木徳彦 ふじき・のりひこ
日本ジビエ振興協会代表理事、オーベルジュ・エスポワールのシェフ。ジビエの魅力を全国に発信。著書に『フレンチシェフが巡る ぼくが伝えたい山の幸 里の恵み』(旭屋出版)など。

●情報は、『FRaU SDGs MOOK FOOD』発売時点のものです(2021年10月)。
Photo:Shiho Furumaya Text:Saki Miyahara
Composition:林愛子

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