つかうほど“お得”な「コミュニティマネー」は、地域貢献にも!
ひとりひとりのお金の力はささやかだったとしても、それが集まれば、より力強く社会を変えていくものになります。大勢の人の意思と想いがこもったお金が、世界を大きく、そして豊かに変えはじめています。今回は、特定の地域や目的を共有するコミュニティ内で利用できる通貨「コミュニティマネー」について、神戸大学大学院経営学研究科准教授の保田隆明さんに伺いました。
Q.コミュニティマネーってなに?
A.一種のコミュニケーションツールです
歴史は古く、もともとはコミュニティ形成の目的で誕生したと考えられています。端的にいうと「地域の活性化を目的とし、限定したエリア内で流通したり、決済手段として利用されたりする通貨」のこと。たとえば、地域清掃などのボランティアに参加したとします。掃除をしてもらった側は、活動に対して何かお礼がしたい。けれど現金を支払うのは生々しいし、そもそものボランティア精神に反する。値段はつけたくないけれど感謝の気持ちを伝えたい。
そんなとき、その地域で使える商品券のようなものがあればいいよね。そんな発想から生まれたものです。その種類は市町村から商店街に至るまで多種多様で、現在100ほど発行されているといわれています。決済、貯蓄などの機能を持つ通貨における、コミュニケーションツールとしての役割を担ってきたといえます。
Q.コミュニティマネーをつかうと
どんないいことがあるの?
A.地域の活性化にひと役買います
飛驒高山エリアで使える「さるぼぼコイン」。利用者はチャージ時に1%分のプレミアムポイントが加算され、加盟店で買い物をするとポイント還元などのサービスも。一方、加盟店は支払いに使われたコインを預金口座に換金して入金できるほか、他の加盟店への送金にも利用でき、地域内で経済が回る仕組みを確立しています。
他にも、香川県の地域ポイント「MEGURINマイル」は、ボランティアなど地域の活動に参加することでポイントが貯まります。またポイントを利用してサッカーなど地元スポーツチームの選手のサイン入りボールなどと交換できたりと、お金では買えないプレミアムな体験も用意され、地元チームを応援するツールとしても活用されています。
Q.コミュニティマネーが進化してるってホント?
A.はい。最近はデジタル化された「電子地域通貨」がメインです
じつは日本のコミュニティマネーは「多産多死」の歴史でもありました。これまで全国で800以上の地域通貨が生まれたといわれ、多くは実質的に消滅しています。その大きな理由は、「地域振興券」のように紙券がメインだった時代の印刷費や、管理業者の設立や維持費などのコストにありました。そんな状況を打破したのが、電子マネーとの連動です。全国に先駆け、2017年にスタートした「さるぼぼコイン」は、当時まだ珍しかったキャッシュレス決済をいち早く可能にした成功例といえます。
ここ数年間で再びコミュニティマネーが盛り上がってきた理由は、このような電子マネーの普及が大きく関わっています。電子地域通貨なら初期コストを下げることができますし、地域通貨の弱点でもあった流通性の課題を克服してくれました。
Q.コミュニティマネーは誰でもつかえるの?
A.はい。地域に住んでいない人でも使えます
「その地域でつかってほしい通貨」とは、地域住人専用ということではありません。スマホのアプリがあれば、実際に現地に行かなくてもインターネット経由で遠く離れた人が電子地域通貨を入手することも可能になり、地域外からの旅行者でも気軽につかえるようになりました。アプリさえ入れれば、何種類でも地域の通貨をつかい分けることができるのです。
現地でつかうときは、専用チャージ機や提携する銀行ATMなどでチャージが可能。そして決済時には、二次元コードを読み取ったりアプリをかざすだけでOK。ちなみに多くのコミュニティマネーには使用期限があるので、旅行者はつかい切れる金額をチャージするのがオススメです。
Q.たくさんの種類から、どうやって選べばいいの?
A.まずはその地域が好きかどうかで選んでみましょう
地域復興や地元活性化といった理念や大義がありますが、まずは難しいことは置いておいて、その地域が好きかどうかで選んでみればいいと思います。温泉や登山、アートめぐりなど旅の目的を選ぶように、千葉県に行ったら〇〇〇マネー、島根県に行ったら〇〇〇ポイント、といった具合に。
滞在中にコミュニティマネーを積極的につかうだけでも、十分地域貢献になります。残ったポイントをつかうため、またその土地を訪れるのも旅のきっかけに。キャラクターが可愛い、プレミアアイテムが欲しいなど、旅行やエンターテインメントの一環として、まずはつかってみてはいかがでしょうか。
Q.コミュニティマネーの注目株を教えて!
A.ふるさと納税と結びついた「HUC」ポイントに注目です
「HIGASHIKAWA UNIVERSAL CARD(HUC)」はちょっと面白い試みです。北海道の東川町は、町を応援する人が町へ投資(寄付)することによって株主となりまちづくりに参加する「ひがしかわ株主制度」という試みをするなど、コミュニティづくりが上手な地域。これはふるさと納税とも結びついていて、町外の人でも参加可能。この「株主証」であり、町民の8割が利用している地域共通カードが「HUC」です。
加盟店での買い物でポイントが貯まるのはもちろん、行政サービスに参加するとポイントが付与されたり、公共施設を町民料金で利用できたり、地域外の人にとっても十分魅力的です。
Q.今後はどんなつかい方が期待できるの?
A.二拠点生活などで活用してみてはいかがでしょう
コミュニティマネーが成功するカギは、持続性や流通性にあると思います。モノ珍しさや話題性、登録初回の還元キャンペーンなどで一時的に注目を集めたとしても、継続的に地域内で流通しなければ本来の目的を果たしているとはいえません。定着のためには地域住民はもちろん、地域外からの応援マネーが入ってくるのが理想的です。
近年は働き方改革などの影響もあり、二拠点生活を送る人も少なくありません。第二の生活拠点、あるいは遊び場として関わりを持つ地域のある人たちは、積極的にコミュニティマネーをつかってみてはいかがでしょうか。そうすることで、継続的に地域経済に関わることができますし、つかうほどにお得感が高まります。これはちょっとした夢物語ですが、将来は地域通貨を積み立てて利用できる一日1組限定の秘密のキャンプ場や、優先的に入居できる特別な老人ホームなどができればいいな、と。コミュニティマネーに対する可能性はますます広がります。
PROFILE
保田隆明 ほうだ・たかあき
神戸大学大学院経営学研究科准教授。スタンフォード大学客員研究員。2019年に電子地域通貨に関する研究論文を発表。専門分野はコーポレートファイナンス、ベンチャービジネス、M&Aなど。複数社の社外取締役も務める。
●情報は、FRaU SDGs MOOK Money発売時点のものです(2020年11月)。
Illustration:Tomoko Fujii Text & Edit:Chisa Nishinoiri
Composition:林愛子