世界中で起きている大災害——その原因は「気候変動」
世界各国が目標を掲げ、脱炭素社会に向けた動きが加速しています。そんなときだからこそ、環境問題をきちんと理解することが大切。地球でいま起こっていることと私たち人間の責任について、基本を学びましょう。今回は、気候変動によって、どんなことが起きているのか、国立環境研究所の江守正多さんに伺いました。
気候変動で何が起きているの?
直近10年間の世界の平均気温は、産業革命直後(1850~1900年)の世界平均気温より1.09℃高くなった。
この1.09℃という数字に「それだけか」と思う人もいるかもしれない。だが、これはあくまで平均。シベリアでは2020年、北極圏の観測史上最高気温(暫定)となる38℃を観測。日本の猛暑日とほぼ変わらない気温だ。2021年には長期間にわたる高温で干ばつが深刻化。乾燥により森林火災が助長されるなど自然災害も起こっている。こうした高温状態が続くと、永久凍土が溶けつづけて土中のメタンガスが放出され、さらに温暖化を加速させる恐れもあるのだ。
地球上の多様な気候は、水や大気が循環することで生まれている。気温が上昇するということは、その絶妙なバランスが壊れてしまうということ。
そして、自然災害の後には水不足や農作物の不作、飢餓が襲ってくることも忘れてはならない。気候変動により故郷を追われる「気候難民」は世界で増加しており、オーストラリアの国際シンクタンク・経済平和研究所は「2050年までに少なくとも12億人が居住地を追われる可能性がある」と指摘。国連はすでに「気候変動による難民申請は妥当」として、支援の必要性を示している。
気候変動の影響①豪雨
2020年、中国・長江流域での断続的大雨で
約2万9000戸が損壊、220万人が避難
温暖化で海水の温度が上がると、水蒸気が増え、それが豪雨を引き起こす。2021年夏は豪雨により中国・河南省の地下鉄で浸水や鉄砲水が発生。オーストラリア・ニューサウスウェールズ州でも豪雨で約1万8000人が避難した。日本でも2020年7月の豪雨では、長野県や高知県の期間中の総降水量が、多いところで2000㎜を超えた。IPCCは、世界の陸域における平均降水量は1950年以降増加している可能性が高く、1980年代以降その増加率が加速していると発表。また、集中的に強い大雨が降る傾向にあり、日本では大雨の頻度は増えているが、年間降水日は減少している。
気候変動の影響②強い台風
2021年、ハリケーン「アイダ」により
米国・ルイジアナ州の100万世帯が停電
台風は海上に発生した熱帯低気圧が発達したもの。発生地域によってハリケーンやサイクロンとも呼ばれる。問題視されているのは、台風の「増加」ではなく「勢力が強まっている」こと。熱帯低気圧は、水蒸気が上昇して水に変わるときに生じる熱を燃料とするので、温暖化で海上の水蒸気が増えると、その分エネルギー源が増えて強力な台風になる。2019年に日本に上陸した台風19号では、住家の全壊が約3000棟、床上浸水が約8000棟におよんだ(2020年4月10日現在)。台風の進路に関わる偏西風も、温暖化によって将来的にいまより北上する可能性が考えられている。
気候変動の影響③熱波
2021年、イタリア・シチリア島で
ヨーロッパ観測史上最高の48.8℃を記録
熱波とは、その地域の平均気温より著しく高温な空気が一帯を覆う現象。広域で何日間も続くのが特徴だ。ヨーロッパでは、2003年の記録的な熱波(推計7万人が死亡)以来、ほぼ毎年観測されており、発生頻度も上がっている。2021年夏はアメリカ・オレゴン州でも47.2℃を記録。これは同地で1890年代に観測を始めて以降の最高気温となった。欧州以外ではインドやパキスタンでも熱波の被害が。都市部ではコンクリートや高層ビルによるヒートアイランド現象も相まって気温が上昇。また熱波による乾燥は森林火災を助長する原因ともなり、世界各地で熱波と森林火災が同時発生している。
気候変動の影響④海面上昇
2006~2018年の世界平均海面水位は
1年あたり平均3.7mm上昇
IPCCは、2100年までに世界の海面水位の平均は、1995~2014年の平均と比較して、温室効果ガスの排出が非常に少なくても28~55cm、温室効果ガスの排出が非常に多いと63~101cm上昇すると予測している。大きな要因は海水の膨張。地球温暖化による熱の90%以上は海に溜められ、水温上昇によって膨張した海水が、海面上昇を引き起こしている。また、南極やグリーンランドの氷床、高地の氷河などが溶け出していることも要因だ。影響を受けるのは海抜の低い島国。日本にとっても他人ごとではなく、海面が1m上昇すると、全国の砂浜の9割が失われる。
気候変動の影響⑤干ばつ
2021年、南米・マダガスカルで
4年連続の干ばつ、114万人が深刻な飢餓に
干ばつが深刻化しているのはアフリカや中東、インド、中国北東部やアメリカ中西部など。地球上には降水量の多い地域と少ない地域があるが、温暖化でその差が広がっている。2019年には世界三大瀑布のひとつ、アフリカのビクトリアの滝が干上がった。2021年、マダガスカルでは4年連続の干ばつで114万人が食料不足に。国連WFPは紛争ではなく気候変動による飢餓は、世界初の可能性があると指摘。IPCCは、乾燥化地域における農業及び生態学的干ばつは、1850~1900年に10年に一回の頻度で起きた規模のものが、現在は10年に1.7回の頻度となり、強度も増していると発表している。
気候変動の影響⑥森林火災
2021年、シベリアで森林火災が深刻化。
煙が北極圏に到達
熱波や干ばつは、深刻な森林火災を引き起こす一因となっている。火災のきっかけは焚き火やタバコなど人為的要因が多いが、長期間にわたって燃え広がり、なかなか消火できない原因の多くが「乾燥」にもある。乾燥した落ち葉が擦れ合うことで摩擦によって火が起こるケースも。2021年夏に発生したシベリア地方の森林火災は、10月末の時点で日本の国土の半分に値する約1800万haを焼き、煙は北極圏に到達した。森林火災は人の生活を脅かし、動植物の命を奪うだけでなく、CO₂を大量に排出することと、CO₂を吸収する森林を失うことの両方で温暖化を加速させている。
PROFILE
江守正多 えもり・せいた
1970年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。1997年より国立環境研究所に勤務。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。IPCC第5次、第6次評価報告書の主執筆者でもある。
●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
※出典:IPCC第5次評価報告書、IPCC第6次評価報告書、環境省『令和3年版環境白書』、資源エネルギー庁『エネルギー白書2020』、環境省『地球温暖化対策計画』令和3年10月22日閣議決定、JCCCA、気候変動監視レポート2020、温室効果ガスインベントリオフィス、2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)〈資源エネルギー庁〉、IEA Market Report Series – Renewables 2020(各国2019年時点の発電量)、IEAデータベース、総合エネルギー統計2019年度確報値
Illustration:Sara Kakizaki Graph:Kenji Oguro Text & Edit:Yuka Uchida
監修・江守正多(国立環境研究所)