闘う環境活動家=グレタ・トゥーンべリの強さと弱さ【前編】
グレタ・トゥーンべリさん。世界で最も有名な環境活動家です。グレタさんについての本を執筆したジャーナリストのアンダース・ヘルベーリさんから、強さと繊細さを秘めた彼女の素顔を聞きました。
Anders Hellberg
アンダース・ヘルベーリ
スウェーデンの環境団体、気候雑誌『Effekt』の編集長兼責任者を経て、環境ジャーナリストとして活動。現在、環境、気候、持続可能性の問題に取り組むニュースサイト「Bokdjuret」を手がける。右はグレタさんについて執筆した書籍のカバー(収益の半分はグレタ財団に寄付、7月5日に日本語訳版も刊行された)で、写真はアンダースさんが撮影した。この写真では無料で世界のメディアに提供されている。bokdjuret.se
Greta Thunberg
グレタ・トゥーンベリ
2003年ストックホルム生まれ。2018年に学校ストライキを敢行。その後、Fridays For Future(未来のための金曜日)のデモを開始。世界のリーダーや政治家たちの気候変動に対する対応が遅いことに不満を抱き、現在も精力的に活動を続ける。米タイム誌の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」に史上最年少で選出され表紙を飾る。2019年、2020年と2年連続でノーベル平和賞にノミネートされた。
グレタ・トゥーンべリの魅力は
意志の強さと優れた人間性
ここ数年、幾度となく議論されてきた地球の気候変動問題に対して潮目が変わった出来事があった。2018年、スウェーデンに住むグレタ・トゥーンべリさんが、たったひとりで起こしたストライキだ。環境問題への同国政府の無関心に抗議するため、国会議事堂の前で座り込みを始めたのだ。3週間にわたるストライキは注目を集め、数ヵ月のうちに世界中に広がるムーブメントとなった。グレタさんがストライキをはじめたころから交流を重ねている環境ジャーナリストのアンダース・ヘルベーリさんは、彼女との出会いをこう語る。
「2018年8月のある月曜日、グレタがツイッターで『今日からスクールストライキをはじめます』と書いたのを目にした。そのとき、私は環境をテーマにした雑誌の編集長をやっていて、もしかしたら何かネタになるかもという軽い気持ちで足を運んでみたんです。国会議事堂に行くと、グレタがひとりでぽつんと座っていた。自作の気候危機を訴えるチラシを手にしながら……。それがはじまりでした。興味深かったのは、彼女の前を通る人々の反応。『がんばって』と応援する人、『学校に行きなさい』と説教する人、そして完全に無視する人。3パターンに分かれました。いま世界の気候変動問題に対する反応もこの3つに分かれるのではないでしょうか。『それにしても、彼女は本当に3週間ここに座りつづけるつもりだろうか』と私も最初は半信半疑だったけれど、毎日そこに通って、写真を1枚撮って、ひとつ質問をして、それをwebに上げようと考えたのです。結局、私も3週間、毎日通うことになりました」
アンダースさんがグレタさんを追いかけたいと思った理由は、優れた人間性によるところが大きかった。
「まず、聡明であること。僕はかれこれ20年以上、グレタが生まれる前からこの業界にいるけれど、こちらが圧倒されるほど知識が豊富で、研究資料も読み込んでいる。読み込むだけでなくてきちんと理解して、自分の言葉で説明できる。そして、ときおり見せる、深刻さのなかに交えるユーモアや、誰に対しても謙虚に振る舞う姿。そういったことはあまり報道されていないかもしれない。さらに芯が強い、いい意味で頑固。3週間のうち最初の9日間は外に座っていても気持ちのいい陽気だったけれど、10日目はものすごい大雨。寒くてさすがにどこかで雨宿りをするだろうと思ったら、そんなことはなくて、黄色いレインコートを羽織って、ずっとそこに居つづけた。決めたらとことんやり通す。あの場所にひとりぼっちでずっと座っているなんてそうそうできないことだと思うけど、一度決めたら絶対に揺るがない意志の強さを持っている、それがグレタの最大の魅力でしょう」
●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Photo:Anders Hellberg Coordination:Akiko Frid Text & Edit:Chizuru Atsuta