Do well by doing good. いいことをして世界と社会をよくしていこう

上野動物園が「世界の動物を守る」ためにできること(後編)
上野動物園が「世界の動物を守る」ためにできること(後編)
PROJECT

上野動物園が「世界の動物を守る」ためにできること(後編)

2017年に「シャンシャン」、2021年には「シャオシャオ」と「レイレイ」の双子のジャイアントパンダが誕生し、国内外で大きな話題となった恩賜上野動物園。動物の赤ちゃんが生まれるとニュースなどで話題になり、多くの来園客を集めますが、こうした繁殖の裏には「世界の動物を守る」という動物園の絶え間ない努力が隠れています。上野動物園の教育普及課長である大橋直哉さんに、そうした試みを伺いました【後編、ジャイアントパンダの写真は(公財)東京動物園協会提供】。

―――前編はこちらーーー

第二の「トキ」を出さないための、さまざまな取り組み

動物を動物園のなかで繁殖させて「ストック」し、野生動物を守るとともに、こうした取り組みの重要性を広く伝えていく……。そんな「ズーストック計画」は、都内の動物園や水族園で、30年以上前から行われてきた。

「動物園で実際に動物を見ることは、非常に意味があると私たちは考えています。もちろん、テレビや絵本などで動物の映像や写真に触れることも大切です。ただ、間近で本物を見ると、匂い、大きさ……と、映像などよりはるかに多くの情報を得ることができます。動物園内で動物を増やし、持続的に飼育していくことは、とても重要なのです」(恩賜上野動物園教育普及課長・大橋直哉さん、以下同)

2020年10月31日に初めて上野動物園で誕生した、アジアゾウの赤ちゃん「アルン」。母親の「ウタイ」と一緒に遊んだりエサを食べたりしている姿は、なんとも微笑ましい。写真提供:(公財)東京動物園協会

2018年には第2次ズーストック計画が策定され、対象となる動物も50種から124種に拡大された。世界の動物園や野生動物の生息地などとも連携しながら、さまざまな挑戦を続けている。

「海外の動物だけでなく、日本国内の動物を守ることも大切。たとえば東京の小笠原諸島に住むオガサワラカワラヒワやマイマイ(カタツムリ)の仲間たちも、近年数を減らしています。こうした『その島や地域にしかいない種』は、台風や病気の流行などイレギュラーな事態が起きた後に、急激に数が減少する危険性があります。ですから現地だけでなく、動物園などにも種を置いておくことで、『保険個体群』を維持しています。同時に、遺伝的多様性を確保しながら飼育繁殖をしていくことで、将来的な野生復帰も可能とする『生息域外保全』を行うことで、絶滅を防いでいるのです」

奄美大島などに生息する、日本の固有種ルリカケス。天然記念物に指定されている希少種だ。上野動物園では
計画的に繁殖し、鹿児島県の平川動物園に「里帰り」させる取り組みを行っている。

こうして「地元の動物を守ろう」という動きは、欧米を中心に、世界中に広がっている。たしかに、それぞれの地域でそこに住む動物を守ることは、もっとも効率がよいともいえるだろう。

「近年、動物を輸入することに世界中がナーバスになっています。とくに哺乳類や鳥類では、動物園での飼育のために生息地で野生動物を捕獲することは、ほとんど行われなくなっています。自然環境に影響を与えず、かつ動物園の役割として多くの来園者に野生動物のことを伝えるためには、動物園内で種を持続していくことが、ますます大切になってきているのです。ズーストック計画も第2次になり、私たち飼育係の意識も変わってきました。私が入職した当時は、『珍しい動物を飼育したい』というスタッフが多かったのですが、最近は『保全に取り組みたい』と志望動機を語る人が増えてきました」

アニマルウェルフェア(=動物福祉)を重視する動きも、年々加速しているという。

「これまで動物園では、『動物に苦痛を与えない環境』を目指していましたが、最近ではさらに動物の立場に立って、『動物がより快適に、負担なく暮らせる状態』を整備することが求められています。

ただ、夏の都心の暑さなどには、施設の整備が追いついていないのが現状。まだまだ古い施設もたくさんありますし、より快適に動物たちが過ごせるように整えていくことが、私たちの課題だと考えています」

小笠原諸島のみに生息する希少種、アカガシラカラスバト。絶滅の危機に瀕しており、一時は100羽以下にまで数を減らしてしまった。上野動物園では、2002年に初めてペアリング、繁殖に成功。その後も繁殖に力を入れている。
 
アカガシラカラスバトのようすを観察に訪れた、東京都小笠原支庁の野生動物保全を担当する職員たち。上野動物園の飼育担当者の説明に、熱心に耳を傾けていた。動物保全のためには、生息地の職員たちとの連携が不可欠なのだという。

上野の森で、地球環境に思いを馳せる

動物園は「世界の動物を守る」、ひいては「地球環境を守る」ことの大切さを学べる身近な場所だ。園内を見渡せば、地球環境に配慮した試みを、そこここに見つけることができる。

野生動物が暮らしやすい環境を保全することは、われわれ人間が暮らしやすい環境を守ることに直結します。私たち人間も動物ですから」

たとえば、シャンシャンやトラ、ゾウが住む東園と、キリンやカバが住み、「パンダのもり」が新設された西園を結ぶシャトルバス。2020年には、大気汚染物質やCO2を排出しない電気自動車が導入された。ガソリン車に比べ低騒音、低振動で、周辺環境と利用者によりやさしくなったという。

上野動物園の東園と西園を行き来するシャトルバス。パンダのラッピングがキュート。

園内に設置されているベンチは、かつてウッドデッキとして活躍していた木材をリユースして組み立て直したもの。また、動物園内にある樹木の伐採された木の枝や葉は、動物たちのエサとして活用されている。

園内で刈り取られた葉っぱは、それを好む動物の新鮮な食料となる。これぞ、まさに地産地消!

「『ヤマモモ』『マテバシイ』『ヤナギ』など、その日刈られた樹木のラインナップが、管理事務所前にあるホワイトボードに記入されます。各動物の飼育係はそれを見て、担当動物の好みの葉っぱがあれば、それぞれの飼育舎に持っていって与えています」

上野動物園に住む動物は、300種3000点。人気の動物だけでなく、国内外の天然記念物や絶滅危惧種も数多く暮らす。そうした動物たちの現状や保護などの取り組みに関しては、園内のパネルなどにわかりやすく掲示されている。大人になったいまだからこそ、動物鑑賞に出かけてみよう!

―――前編はこちらーーー

photo:横江淳 text:萩原はるな

Official SNS

芸能人のインタビューや、
サステナブルなトレンド、プレゼント告知など、
世界と社会をよくするきっかけになる
最新情報を発信中!