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素晴らしき哉、動物のいる世界「宮崎学 イマドキの野生動物」展へ
素晴らしき哉、動物のいる世界「宮崎学 イマドキの野生動物」展へ
COLUMN

素晴らしき哉、動物のいる世界「宮崎学 イマドキの野生動物」展へ

“今の暮らしを再考し、最高の日々をめざす”試行錯誤の日々を綴る『暮らしサイコウ』。5回目は大切に守りたい野生動物と、東京都写真美術館で開催中の展覧会について。

野生動物には、正直あまり馴染みのない環境で育った。
城下町である上に宿場町だった故郷は地方ではあるものの、実家の周囲には田んぼも畑もなく、商店街と料亭や旅館、飲食店が並び、芸者さんが歩くような土地だった。けれども祖父母から、高度経済成長期に入るまではこの辺りにもキツネやタヌキがいて、遭遇した人が化かされて迷子になっていたという話をよく聞いた。化かされて、が本当かどうかはさておき、当時はすぐ近くにキツネやタヌキがいたらしい。また、川沿いの料亭にともるロウソクの灯りを、川から上がってきたカワウソがいたずらをして次々と消していき、つけ直す仲居さんとイタチ(カワウソだが)ごっこになっていた、という話も聞いた。その情景を想像するとあまりにも可愛くて面白いので、何回もねだって話してもらった。
だがそれらの野生動物を今、故郷で見ることはない。都市化の波とともに生息地を追われ、いつの間にか姿を消してしまったのだ。多くの都市が似たようなものだろう。

一方で近年、猿が渋谷の駅までやってきて騒ぎになったり、熊が人を襲ったりするニュースをよく耳にする。さまざまな理由から急増してしまったニホンジカやイノシシが森林や花畑を荒らすことによる被害も深刻な問題になっており、「害獣」という言葉も浸透し、ジビエ料理やジビエを使った加工食品は駆除されたそれら害獣の利用法としても存在感を高めている。畑を食い荒らす野生動物に手を焼く農家の話もあとを絶たない。こんな話ばかり聞いていると、なんだか野生動物=悪だと思ってしまいそうだが、もちろんそうではない。今後、豊かな自然を守り、野生動物と人間の関係を安全で良好なものとして未来に残していくためには、生態系を乱さないように管理しつつ、共に生きるための正しい道を模索していく必要がある。そのためにも、野生動物に縁遠くなってしまった現代を生きる我々が野生動物に興味を持ち、彼らの生態をもっと知ることが大切だ。

現在、東京都写真美術館で開催されている「宮崎学 イマドキの野生動物」展は、まさに現代を生きる野生動物のありのままの姿を我々に届けてくれている貴重な写真展だ。「自然界の報道写真家」として知られる宮崎学(1949-)の、半世紀近くにわたる作家活動の軌跡をたどりながら、さまざまな撮影困難な野生動物のありのままの姿を観ることができる。

《中央アルプスの稜線から下界を見下ろすニホンカモシカ》〈ニホンカモシカ〉より 1970-1973年
《テン》〈新・アニマルアイズ〉より 2018-21年

会場には、人間の気配に敏感な野生動物を撮影するために、動物の通り道に自作の赤外線センサー付きのロボットカメラを設置したことで撮影に成功した〈けもの道〉のシリーズや、「動物たちの住む森を動物の目線で見る」をコンセプトにしたシリーズ最新作となる〈新・アニマルアイズ〉〈君に見せたい空がある〉など、人間の目が及ばない世界をみごとに写し出した写真の数々が並ぶ。

《ツキノワグマのカメラマン、長野県、中央アルプス》〈イマドキの野生動物〉より 2006年

これらの写真は、単に動物たちの魅力を伝えるだけでなく、人間の生活空間のすぐそばに出没している事実や、外来動物の影響なども伝えている。人間の言葉を発しない彼らの姿を見ていると、動物と人間の共生、ひいては人間と自然の未来についても考えさせられる。特に、死んだニホンジカが他の動物の餌になり、やがて土に還って行く過程を段階的に撮影した作品は、食物連鎖の様子を伝えるとともに、我々を含む動物が自然の一部であることを思い起こさせ、強烈な印象を残す。

《巣だちが近いヒナ》〈フクロウ〉より 1982-1988年 東京都写真美術館蔵

イマドキというタイトルはポップだが、そこに込められた意味は深い。これらの動物が30年後、50年後も生息し、こうしてカメラに収まることができるように、人間側も自然界の平等なメンバーとして驕らず、できることを考えていかなくてはいけない。そうすればまた我が故郷にもいたずら好きなカワウソが戻って来てくれるかもしれない。

《1月27日6時36分》〈死〉より 1994年 東京都写真美術館蔵

開催概要 展覧会名:宮崎学 イマドキの野生動物
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都写真美術館
後援:信濃毎日新聞社協賛:株式会社ニコン/株式会社ニコンイメージングジャパン/東京都写真美術館支援会員
協力:株式会社モンベル
会期:2021年8月24日(火)~10月31日(日)
会場:東京都写真美術館2階展示室
開館時間:10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:毎週月曜日(ただし8月30日、9月20日は開館)、9月21日(火)
観覧料:一般700円/学生560円/中高生・65歳以上350円※オンラインによる日時指定予約を推奨しています。

東京都写真美術館
TOKYO PHOTOGRAPHIC ART MUSEUM
〒153-0062
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
電話 03-3280-0034 / FAX 03-3280-0033
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水谷美紀

エッセイコンテスト入賞を機にファッションの世界からライターへ。現在はおもに広告・PR業に編集も。小さめの映画と街歩きが好き。牛肉・はまぐり・鋳物で知られる三重県桑名市出身。

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