ビューティ業界にもサステナビリティが叫ばれる昨今。私たちを美しくしてくれるコスメや美容室にも環境やジェンダーの視点で、新たな価値観が求められています。これからの新しい美の定義とは？　素肌に色で遊んだメイク、サステナブルな素材使いと古着やメンズウェアをミックスした自由なスタイリング。ルールにとらわれない美しさが、私たちの心を動かします。

歳を重ねることで人生が
カラフルに思えてきたんです

俳優として、その凛とした生き方で、常に私たちを魅了する美しい人、宮沢りえさん。

「ふだんはメンズを着ることも多いんです。女性らしさみたいなものは、声や表情だったり、指先だったり。そういうところで楽しむ。いつもほとんどノーメイクなのですが、今日の大胆に色で遊ぶメイクには気分が上がりました。自分なりにアレンジして取り入れてみたいですね」

美しさについて、どのように考えているのだろう。

「いまある自分の年齢に対して素直になること。それはすごく美しいなと思います。肌も髪もすべてがピュアな若さは無条件に美しいと思う。でも、人生を重ねてできたシワとか、心の経験値や豊かさ、痛みも喜びも知ったうえで発する言葉……まわりの人とのコミュニケーションを愛を持ってできるようになることが、理想とする美しい女性像かな」

これまでの思い込みを手放したできごとがある。

「俳優として役を演じている時間は別の誰かの人生の時間で、舞台から降りてやっと自分に戻れるという感覚がずっとあったんです。そんなときに平野啓一郎さんの『分人主義』という考え方を知って。立体となった自分にはいろんな面がある、それが個人というものであると。物語のなかで生きることも自分の人生の一部であり、虚構や空白ではないと思えたら、すごく満たされた。いつも笑顔でいたいと願っている自分、役で絶望や葛藤を演じている自分、家に帰って家族と過ごすひととき、夜になって彼と話す時間、どれも私だし、私であっていい。人間って、カラフルで楽しいと思えるようになったんです」

言葉が好きで、助けられることも多い。アインシュタインが彼の娘に送った手紙にも感銘を受けた。

「『愛は宇宙的な力である』と。それを特殊相対性理論の方程式を用いて、『愛こそが存在する最大の力だという結論に至った』と書いていて、なんて面白いんだろうと。目には見えない、でも、たしかにあるものに思いを馳せると、自分の思考が深く広がるのを感じます。生きるうえで大切な存在がいることは豊かさにつながるし、人を愛おしいと思う気持ちは絶対に美しい表情として表れる。娘にも、『美しい言葉を発していると、そのための美しい骨格ができあがるんだよ』って話しています。医学的な根拠は、ぜんぜんないんですけどね（笑）」

PROFILE

宮沢りえ　みやざわ・りえ
1973年東京都生まれ。映画、舞台、テレビドラマなど幅広く活躍し、モスクワ国際映画祭最優秀女優賞、3度の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、読売演劇大賞・最優秀女優賞など数々の賞を受賞。

●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。
Photo：Yuki Kumagai　Styling：Mana Yamamoto　Hair：Miho Matsuura　Make-Up：Tomohiro Muramatsu（SEKIKAWA OFFICE）　Edit：Naoko Sasaki
Composition：林愛子