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漫画家・タナカカツキ「沖縄のサンゴが危ない!」の真実に迫る【前編】
漫画家・タナカカツキ「沖縄のサンゴが危ない!」の真実に迫る【前編】
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漫画家・タナカカツキ「沖縄のサンゴが危ない!」の真実に迫る【前編】

美しい地球を構成する水、土、森、海、山、川、植物……。環境を大切にすることはもちろんですが、そもそも自然とは人間が守ってあげるものではなく、むしろ私たちが守られ、多くのことを学ばせてもらう存在。今回は、沖縄を舞台にした、漫画家・タナカカツキさんの学びのストーリーを紹介します。

沖縄のサンゴ問題を
理解していますか?

琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設がある、沖縄本島西海岸の瀬底島(せそこじま)で。背後にあるのは、大昔のサンゴ礁が隆起したもの。足元にも白いサンゴのかけらが散らばる。右はタナカカツキさん、左が山城秀之(やましろ・ひでゆき)琉球大学熱帯生物圏研究センター教授。山城さんはサンゴの病気や共生する生物をテーマに研究し、数々の新発見を論文で発表。著書に『サンゴ 知られざる世界』がある

「サンゴが危ない!」と、以前からたびたび騒がれている。でも、何が原因で、減少するとどんな問題が起こるのか、そもそもの生態や役割についても、きちんと理解している人は少ないのではないか。サンゴについて、「動物、植物、鉱物のような、ぼんやりとしたイメージ」と語るのは、漫画家のタナカカツキさん。淡水の水槽のなかに水草や生物をレイアウトして循環した環境をつくる「水草水槽」にはめっぽう詳しいが、海水に生息するサンゴは未知の世界。沖縄の海に学ぼうと、サンゴを巡る旅に出ることにした。

日本で見られる約400種のサンゴのうち、380種以上が生息するという沖縄の海。サンゴ礁は波や潮の流れから海岸を守るだけでなく、多くの生物の住処(すみか)であり、海の生態系を支える重要な存在だ

地元の言葉で「うるま」と呼ばれ、「サンゴの島」の異名を持つ沖縄県。800種類にのぼるサンゴのうち、約400種類が確認され、世界的にもサンゴの多い領域といわれる。この地に着いてタナカさんが最初に訪ねたのは、サンゴ研究の第一人者として知られる琉球大学熱帯生物圏研究センターの山城秀之先生だ。

「沖縄でも1960年代までは、サンゴの問題って何もなかったんですよ。沿岸に山ほどいて、子供の頃、海は危険と教えられました。釣り糸が引っかかるし、踏んでも踏んでも生えてくるし、邪魔な存在だったんです」

海の黒く見える部分は、サンゴが生息している豊かな海

昔の海岸を撮った写真を見ると、いまより黒い影が目立つ。サンゴが元気に生きていた証拠だ。沿岸のサンゴは台風の被害を防ぐ、天然の防波堤の役割も果たしてくれる。

「サンゴは基本的に、イソギンチャクの仲間。動き回らないので植物のようですが、クラゲにも近い刺胞(しほう)動物です。触手で動物プランクトンなどを食べるほか、体内に共生する『褐虫藻』の光合成でできた養分に、9割を頼って生きています。サンゴ礁が世界の海洋に占める面積はたった1%以下ですが、そこに海洋生物の約25%が依存して生きているので、サンゴが減少すれば、当然その生態系も失われてしまう。生きたサンゴは石灰質の骨格をつくり、酸素も生成してくれます。サンゴがいなくなってもサンゴ礁は残るから防波堤になると思うかもしれないけど、それもどんどん壊れていきます」

2015年の研究施設周辺のサンゴ領域のようす。昔はもっと領域は広く、沿岸まで真っ黒に見えたという

なるほど。ではなぜ、60年代まではたくさんいたサンゴが減ってしまっているのだろう。

「最初は1969年。沖縄本島でサンゴを捕食するオニヒトデが大量発生して、ガクンと減りました。一説には生活排水や赤土などの流出で、オニヒトデの生存率が上がったことが原因といわれています。次が1998年の大規模な白化現象。水温が2℃上がり数ヵ月下がらず、サンゴの生命を支えている『褐虫藻』が逃げてしまった。数ヵ月で沖縄の80%のサンゴが死んでしまい、愕然としました。当時、サンゴの病気を調べ始めていたんですが、春先にマークをつけていたサンゴが全滅してしまった。あれ、白いぞ、ちょっとキレイだなと思っていたら、茶色いサンゴの林が白い林に変わって、やがて黒い瓦礫(がれき)になった。地球温暖化の話はよく聞いていましたが、まさかこんなことにと。ショックでした」

「それは悲しいですよね。しかも、たった2℃の違いで! サンゴといえば白くて美しい姿が頭に浮かぶけれど、あれが死骸だというのも初めて知りました」とタナカさん。

サンゴの適温は18℃から28℃。暑くて水温が30℃を超える日が長く続くと、生命線である褐虫藻がストレスで逃げてサンゴは白化し、死滅につながる。ほかにも、新しい感染症や、サンゴに覆いかぶさって成長する海綿動物の一種「テルピオスカイメン」が発生して、サンゴが呼吸できずに死んでしまったりなど、水温の上昇によるサンゴの危機はいくつもある。水の汚染や温暖化が、サンゴの生きられない海をつくっているのだ。

バックヤードの水槽も見せてもらった。ここで日々、サンゴの天敵・テルピオスカイメンなどを調査し論文を発表する

「サンゴがいなくなると、海中は海藻とカイメンに支配される。それはもう、間違いないでしょう。それが2070年とか、2050年という人もいます。急に変わるのではなく、いまも変わり続けているんです」と山城先生。

「そんなにめちゃくちゃに遠い未来ではないですね。いまの子どもたちが、ふつうに大人として生活しているはずです」と、タナカさん。

食い止めるには、どうしたらいいか。厳しい状況のなかで、希望も残してくれた山城先生。

「とにかく温暖化させないで、水温を下げること。化学物質、除草剤などを流さないこと。それらは最後、必ず海にたどり着きますから。オニヒトデの除去対策や、サンゴの植えつけも免罪符になってはいけませんね。消えたものは蘇りませんが、水温が下がってくれば、成長も早いからいつでも戻ってきますよ」

▼後編につづく

PROFILE

タナカカツキ
マンガ家。著書に『オッス!トン子ちゃん』『マンガ サ道』『新・水草水槽のせかい すばらしきインドア大自然』など。世界水草レイアウトコンテスト2021で世界ランキング17位(日本人では1位!)。

●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Illustration:Katsuki Tanaka Photo:Masayuki Nakaya Text & Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子

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