食のプロはなぜ「生産者を応援する食材」を選ぶのか
「買い物は投票だ」という言葉を聞いたことがありますか? 世界では「Money Voting(お金の投票)」を合い言葉に、ひとり一人のお金の力で世界をよりよく変えていこうという動きが広がっています。
日々、何を選んで、何にお金を投じるのか。それは、自分がいいと思うもの、賛同する社会のあり方にたしかな意思を表明するアクションです。あなたはどんなものに「お金の投票」をしていますか? 料理家の冷水希三子さんに伺いました。
冷水希三子のMoney Voting
「阿蘇・あか牛を買うのは私の意思表示」
料理家としての仕事でも、日々の料理でも、できる限り素材の持つ味を最大限に引き出したいと思っているので、調味料は最低限しか使いません。でも、それは力のある素材があってこそできること。のびのびと育てられた鶏や、農薬も肥料も使わずにたくましく育った野菜など、選ぶ素材の多くは環境に負荷をかけず、昔ながらの方法で生産したものばかり。
けれど環境汚染や経営の厳しさは大問題です。よい食材が手に入らなくなったら私も困るので、多少値が張っても、手間がかかっても、そうした食材を購入することで応援していきたいんです。
「あか牛」を育てた井信行さんもそんな生産者のひとり。牛肉はサシの入り具合で等級や価格が決まることから、多くの畜産農家は霜降りにするために輸入の濃厚飼料を与えているといいます。井さんは、熊本県・阿蘇の草原に牛を放ち、わき水や生えている草を与えています。肥育期のエサは地元の米や国産小麦、大豆などをすりつぶした手づくりのものです。
井さんのような育て方や、その結果のキレイな味が評価される世の中になってほしい。井さんの後を追う若い畜産家もキチンと稼いで生活していけるように。井さんの牛肉を買うことは、私なりの意思表示です。
PROFILE
冷水希三子 ひやみず・きみこ
料理家。雑誌、書籍、広告、映画などで料理制作、レシピ提案を行うほかホテルやカフェなどのメニューディレクションも手がける。生産者とのつながりを大切にしたやさしい料理が人気。著書に『スープとパン』『さっと煮サラダ』(ともにグラフィック社)など。
●情報は、FRaU SDGs MOOK Money発売時点のものです(2020年11月)。
Photo:Tetsuya Ito Text:Shiori Fujii Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子