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漁師・三浦大輝「三陸の海、人々から学ぶ」【前編】
漁師・三浦大輝「三陸の海、人々から学ぶ」【前編】
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漁師・三浦大輝「三陸の海、人々から学ぶ」【前編】

美しい地球を構成する水、土、森、海、山、川、植物──まわりにある環境を大切にすることはもちろんですが、そもそも自然とは人間が守ってあげるものではなく、むしろ私たちが守られ、多くのことを学ばせてもらう存在。三陸を舞台にした、漁師・三浦大輝さんの学びのストーリーを紹介します。

証券会社を1週間でやめ、
石巻の師匠に弟子入り

10月、生まれた海に戻ってきた秋鮭を捕獲する定置網漁。早朝からの作業にもかかわらず、魚が網に入るとこの笑顔。卵を持ったメスは、ずっしりと重い

宮城県石巻市雄勝町は、ホタテやホヤ、ギンザケなどの養殖業が盛んな漁師町。三浦大輝さんはここで若手漁師として奮闘している。4年半前に大阪から移住し、師匠である漁師・佐藤一さんのもと、主にホタテやギンザケなどの養殖に携わりながら、2020年には区画漁業権を取得。牡蠣養殖をスタートさせ、地元の加工会社とコラボした商品を発売するなど、着実に成長してきた。

取材に訪れた10月は養殖するホタテや牡蠣に加え、定置網で捕獲する秋鮭の水揚げシーズン。未明の3時ごろには船を出して水揚げをはじめ、日が昇りはじめるころに港に戻ってくる。その場で殻を開けてくれたホタテの身はぷっくりと大きい。上々の出来だ。

ロープに稚貝を吊るす「耳つり方式」で育てたホタテ。海中のプランクトンを食べて育つため、海の環境がダイレクトに影響する

「約1年間、大切に面倒を見てきたものが育って出荷されていく。その瞬間が一番うれしいですね」と三浦さん。自身が管理者として育てる牡蠣も立派に育ち、出荷の日を迎えた。養殖と聞くと、稚魚や稚貝を海に入れ、その成長をただ待つというイメージが強いが、じつは日々、海の状況を見ながら適切に手をかけてやらなければいけないという。

「ホタテや牡蠣はロープに稚貝を吊るして海に入れます。貝が成長するにつれて重みが増すので、沈みすぎてしまわないよう、適宜ロープにつける浮き玉を増やさないといけない。牡蠣の場合はムール貝がくっついてきて栄養を奪ったりするので、その駆除にも頭を悩ませる。そういう管理が適切に行き届くかどうかで、同じ浜で同じ品種を養殖していても、実入りに違いが出るんです」

師匠の佐藤一さん(左)、弟弟子の冨樫翔さん(右端)と。佐藤さんはふたりの父親のような存在

経験がモノをいうのは海に出て魚を獲る漁師と同じ。そうしたひとつ一つを、師匠である佐藤さんの姿から学んできた。

「移住した当時は僕みたいなヨソ者が漁師になるなんて前例はなくて、『なんでこんな田舎に来たんだ、帰れ』と言われたこともありました。小さな漁村ですし、受け入れてもらうにはとにかく頑張っている姿を見てもらうしかない。そんな状況のなかで僕を雇ってくれた佐藤さんには、感謝しかないです」

漁師5年目の三浦さん。船の操縦も板についてきた

佐藤さんにとって三浦さんははじめての弟子。キッカケは石巻の若手漁師らが次世代へと続く未来の水産業をつくるために立ち上げた団体「フィッシャーマン・ジャパン」が中心になって開催した、1泊2日の漁師学校だった。東日本大震災で甚大な被害を受けた雄勝町。少しでも水産業を盛り上げようと、佐藤さんはその講師役を買って出たのだった。

「弟子をとるなんて考えてなかったのですが、大輝が自分のところで働かせてほしいと言うので、まあ、最初は仕方なく(笑)。当初は周囲の人々から反対もあったけど、持ち前の素直さと人なつっこさ、あとは熱意が通じて、いまではみんな応援してくれていますし、期待もしてくれています」

水揚げしたばかりのホタテは濃厚な味

ところで三浦さんは、なぜ漁師になろうと思ったのか。話は大学時代にさかのぼる。大阪の公立大学を卒業後、大手証券会社に就職した三浦さん。エリート街道まっしぐらのはずが、入社後、数ヵ月で退職してしまう。

「大学時代はやりたいことがなくて。体育会に所属していたこともあって、就職するならOBが多い金融関係かなって、漠然と思ってました。仕事内容にまったく興味もないのに、面接ではうまいこと言って(笑)。一流企業ということで親も喜んでくれました」

2020年に区画漁業権を取得した三浦さん。自分の船を「大輝丸」と名づけ、牡蠣の養殖を始はじた。三浦さんが管理して育てた牡蠣は地元の水産加工会社とのコラボ商品「牡蠣の潮煮」にもつかわれており「身が大きくて締まっている」と好評

入社後は東京での研修を経て、愛知県の支店に配属となった。退職したのは、その1週間後。

「毎日外回りをして金融商品を売るという仕事。体育会系だったし、そういうゴリゴリした感じは向いてるかなと思ってたんですけど、周囲は本気でこの仕事を目指して来ている人ばかり。気合がぜんぜん違うし、何より自分には向いてないなって思って」

▼後編につづく

PROFILE

三浦大輝 みうら・だいき
1994年、大阪府生まれ。大学卒業後、証券会社に入社。22歳で宮城県石巻市雄勝町に移住し、漁師見習いに。2020年に県漁協雄勝湾支所の正組合員に。牡蠣の養殖などを手がける。

●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Photo:Kei Taniguchi Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子

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