橋本愛「好きなものには“ありがとう”の対価を払いたい」
「買い物は投票だ」という言葉を聞いたことがありますか? 世界では「Money Voting(お金の投票)」を合い言葉に、ひとり一人のお金の力で、世界をよりよく変えていこうという動きが広がりはじめています。
日々、どんなものに自分のお金を投じるのか。それは、いいと思うもの、賛同する社会のあり方にたしかな意思を表明するアクションです。あなたはどんなものに「お金の投票」をしていますか? 女優の橋本愛さんに「Money Voting」への思いを伺いました。
橋本愛のMoney Voting
「名画座で映画を観る」
17歳くらいの頃から名画座に通いはじめました。日活ロマンポルノのような、ディープかつ監督の個性が輝いている映画に心酔していて。そういった素晴らしい芸術に出合いたくって、多いときは毎日のように足を運んでいました。行った名画座で大量のチラシをもらってきては、「今日は何を観ようかな、明日はこれとこれを観たいから2つの映画館をはしごしよう」なんて考えている時間が本当に好きで。いつの間にか名画座が心の支えになっていきました。
その頃は、女優としてのキャリアをスタートしたばかりで、仕事が急に忙しくなってきた時期。急激に変化していく環境や、“いま”に乗り切れなかったんだと思います。現場に行くたびに自分の未熟さに気づいて落ち込んでいました。前に進もうというエネルギーがどうしても出てこないとき、いつ行っても古きよきものに触れられる名画座は、家よりも落ちつく特別な場所でした。「世間の求めるものに追いつこうとしてムリに進まなくても、一呼吸おいて止まっていていいんだよ」と教えてくれたというか。「ここが自分の居場所なんだ」と思わせてくれました。家でひとりで映画を観るのと違って、映画館って誰かしらまわりにいるからホッとするんです。
その時期から成長して、どんどん新しいことに挑戦し、前に進んでいきたいと思っているいまも、名画座は映画の根幹に触れられる特別な場所。ストーリーにのめり込むという映画の醍醐味も味わいながら、「このカメラワーク斬新!」とか、「照明の感じが素敵だな」という視点でときめいている自分がいます。「もしかしてあの映画を意識して、オマージュしているのかな?」とか、監督の意図に気づけたときは、映画でつながっている感じがして、とてもうれしくなります。
映画に限らず、どんな場面でもお金を払うときは、「対価」を払っていると思っています。名画座だったら、映画を撮った人、出演している人、フィルムを管理している人、心地よい空間をつくってくれている人など、大きな意味で映画に関わるすべての人たちに、「ありがとうございます、これからもよろしくお願いします」という気持ちで、お金を払っています。もちろん映画だけでなく、音楽だったりアートだったり、洋服だったり。おいしいごはんをつくってくれる人たちに対してもそう。自分によきものを与えてくれる人たちへ、お金を通して感謝の気持ちが伝わるといいなと思っています。
自分にとって、自分の好きなものをつくってくれる人はとても大切な存在。でも正当な対価を得られなければそうしたものをつくっていただけないですし、その方自身の自己実現も難しくなり、クリエイティブなことができなくなってしまいます。お金ってそれくらい大切なもの。何かを得るために対価を支払わなければ釣り合いが取れず、いつか大切なものを失うことになるとも思っています。芸術に携わる身として、これからも自分の好きなものには感謝の気持ちを込めて対価を払っていきたいです。
PROFILE
橋本愛
はしもと・あい/女優。1996年、熊本県生まれ。中島哲也監督『告白』で注目を集め、2013年吉田大八監督『桐島、部活やめるってよ』などで日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。
●情報は、FRaU SDGs MOOK Money発売時点のものです(2020年11月)。
Photo:Tetsuo Kashiwada Styling:Naomi Shimizu Hair & Make-Up:Hiroko Ishikawa Text:Marie Takada Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子