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工藤阿須加「俳優だから伝えられる農業のいま、未来」
工藤阿須加「俳優だから伝えられる農業のいま、未来」
VOICE

工藤阿須加「俳優だから伝えられる農業のいま、未来」

俳優業のかたわら、山梨県の畑で農業に挑戦している工藤阿須加さん。役者として成長著しいいま、なぜあらたな行動を起こしたのでしょうか?

いま動かないと間に合わない。
コロナ禍ではじめた農業

コロナ禍で、ベランダ菜園をはじめたり、コミュニティ農園で野菜づくりに挑戦したりなど、食材をつくることに興味を持ちはじめた人が多いという。俳優の工藤阿須加さんは2021年、山梨県北杜市にある農家の門を叩き、研修生として本格的に農業を学び出した。いまや農園の1区画を担当し、15種類ほどの野菜を栽培、「阿須加農園」の屋号で販売までしている。

食への興味は幼い頃から漠然と持っていた。

「父(工藤公康氏、ソフトバンクホークス前監督)がプロ野球選手だったので、母は食事に人一倍気をつかっていました。思い出すのは常に家に漂っていた出汁の香り。大人になってはじめて、粉末やパックタイプの出汁があるんだと知ったくらいで。毎日食べるものは体をつくる基礎となるもの。だからこそキチンと考えて選ばないといけないということを、生活のなかで学んでいたんだと思います」

食や農業について関心を持ったのは自然なことだった。東京農業大学に進学し、就農と道も真剣に考えていた。それでも役者を選んだのは「誰かのキッカケになりたい」という思いからだった。

「小さい頃から、壁にぶち当たったときには必ず誰かが手を差し伸べてくれました。小学生から続けていたテニスをケガのために高校であきらめなくちゃならなくなったときもそう。家族や先生、友人の助けがなければ、いまの自分はなかった。自分もそんなふうに誰かに手を差し伸べられる人間でありたいし、自分が発信したことで一瞬でも誰かの人生が明るくなれば、こんなにうれしいことはない。それができるのが役者なのかなと思って」

トラクターの運転にも慣れてきた。北海道原産のじゃがいも「さやあかね」の栽培にに挑戦、種芋を植える間隔の調整など、実験を重ねているという

しかし、農業の道を捨てたわけではなかった。

「いまでこそ若い世代が就農したり、農家さん自身がSNSなどで情報発信したりするようになりましたが、当時、まだ農業は閉ざされた世界という感じがあって。農業や日本の現状、世界が抱える食の問題を発信していくためには、それなりの知名度も必要。自分が役者として注目されれば、農業のことでも発信力を持てるのではという思いもありました」

大学在学中から俳優として活動し、映画やテレビに欠かせない若手の注目株になった。そのタイミングで農業に取り組もうと決めたのは、「いま行動を起こさないと間に合わない」という切実な思いがあったからだ。

「輸出国の大規模な水害、コロナ禍で世界的に物流が混乱したことなどで、深刻なじゃがいも不足になりました。日本のファストフード店でも、フライドポテトの販売が中止になったことがありましたよね。気候変動や感染症の流行は今後また起こらないとも限らないですし、ほかの農産物でも同じことがあるかもしれない。じゃあ、もっと国内で食料をつくろうといっても、急に農家が育つわけじゃない。だからこそ、いま動かないといけないと思ったんです」

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俳優としてメッセージを発することは、すぐにでもできる。だが、農業を経験したことのない人間が農業の危機を訴えたところで、どれだけの人が耳を傾けてくれるだろうか。

「誰かに何かを伝えようと思ったら、自分でそれを経験するしかない。それがあるのとないのとでは、言葉の重みがぜんぜん違うから」

と工藤さん。多忙を極める俳優業の合間を縫って、畑へ通う日々を送っている。

「農業をはじめて身に染みたのは、自然にはウソがないということ。自分がどう向き合うかが、そのまま結果に反映される。だからといって、努力がすべて報われるわけじゃない。そこにはある意味、矛盾があるわけですけれど、そこが面白いと思う。命あるものと関わること、自分自身が生きるということの本質なんじゃないかって」

「阿須加農園」として野菜を出荷。無農薬の有機栽培で15種類ほどを育てている。初年度は天候や害虫など、様々なトラブルもあったが、それも含めて農業の楽しさ、厳しさを実感した。

農業に携わって1年半。気持ちの面でも、たしかな変化を感じている。

「心の余裕というのでしょうか。以前は焦ったり、あわてていたことなんかも、ひと呼吸置けるようになって、体も心も軽くなったような気がします。こんなふうに言うと『農業=癒やし』と言っているように聞こえるかもしれませんが、実際は逆です。農業は、体力はもちろん、知力も常にフル回転させなくちゃやっていけない。癒やしの場どころか、戦場です(笑)」

それでも自分が丹精込めて育てた野菜を収穫するときには、すべてが報われた気がする。生産者の気持ちも、だんだんわかってきた。

「食べた人からの『おいしい!』を聞くのが最高の瞬間。その喜びを知ったからこそ、農家と消費者をつなぐ架け橋になるような活動をしたいと強く思っています。2023年からは自分の畑に人を招いて積極的に農業体験会を開催する計画もあります。土にじかに触れて、食べ物ができる現場を体感すること。それだけで食への関心は大きく変わります。収穫体験なんて生易しいものじゃないですよ(笑)。がっつり汗を流して、ぜひ農業の世界を楽しく体験してもらいたいですね」

PROFILE

工藤阿須加 くどう・あすか
1991年埼玉県生まれ。2012年ドラマ『理想の息子』で俳優デビュー。2013年NHK大河ドラマ『八重の桜』では主人公の弟を演じ、注目を集める。2015年には第24回日本映画批評家大賞で新人男優賞受賞。日本テレビ系の番組『有吉ゼミ』では「工藤阿須加 楽しい農園生活」のコーナーで野菜づくりのようすを体当たりでレポートしている。

●情報は、FRaU2022年8月号発売時点のものです。
Photo:Tetsuo Kashiwada Styling:Shogo Ito(sitor) Hair & Make-Up:shinYa Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子

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