ラジオパーソナリティとして活躍するクリス智子さん。現在ナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組「GOOD NEIGHBORS」では平日お昼の顔として、日々さまざまなゲストとのトークを通じ、情報を発信しています。近年はSDGsにまつわるトピックスを取り上げることもありますが、常に考えているのは、ただ「情報を投げる」のではなく、リスナーと一緒に「考え続ける」ことなんだそう。

小さなきっかけでいい。
自分ごと化できる発信を。

「SDGsというのは私たち全員がこれから意識を向けていかなくてはいけないことであるのはもちろんですが、いま、あまりにたくさんの問題が爆発的に目の前に提示されていて、そのすべてをどう捉えたらいいのか、具体的にどう動けばいいのか、イメージしにくいというのも事実ですよね。私の番組では『暮らし』や『人とのつながり』を軸にしているのですが、そのなかでどんなふうにSDGsのことを発信していけばいいのかと考えたとき、『地に足のついた生活』が大切なことなのかなと思うんです」

SDGsは世界が抱えるさまざまな問題を持続可能な形で解決していこうという国際的な目標だが、それはひとり一人の生活を考えること抜きには実現できない。

「お買い物をする、着るものや食べるものを選ぶ、そういう日常の生活のなかで選択するときの指針として捉えるのがいいのかなと私は思っているんです。さまざまな国や地域、人々が行っている情報に触れると、とても大きなことだと思ってしまいがちですが、情報だけにとらわれて振り回されるのではなくて、それを踏まえたうえで、じゃあ自分の暮らしのなかでは何ができるかなと考えてみる。そうすると自然に、地に足のついた生活につながっていくと思いますし、それって案外、心地がいいものだったりする。ラジオがそういう小さなきっかけになれたらいいなと思っているんです」

日々、いろいろな専門家に話を聞くなかで、クリスさん自身も多くの気づきを得てきた。

「たとえばカビの専門家にお話を伺ったとき。カビと聞くと『排除しなくては』と思う方が多いかもしれませんが、これまでの人類の歴史を振り返ると、ヒトとカビのいい関係もたくさんあることがわかります。そんなふうに会話をすることで、自分の価値観が覆ることもあるんです。そうすると、世界を見る自分の目もまた、少し新しくなるんですよね。興味から『？』をもつことで得られる視点は大事で、『どうすればいいのか？』の答えを自分で探してみることが一番大切だと思っています。そんなふうに、自分の価値観や暮らし方をアップデートしていくと、小さなきっかけで自分ごと化できる。日々の放送のなかで、ひとつでもそういう発見をしていただけたらうれしいですね」

それはSDGsに関しても同じだ。

「みんなそれぞれ住んでいる場所も生活スタイルも、性格だって違います。だからこそ、『もし自分だったら……』といった想像力を働かせることが大切ですよね。『自分だったらどうするのが向いているのかな、楽しめそうかな？』と考えてみる。自分の調子が出せる方法でやってみたらいいと思うんです」

見聞きしたすべての情報を自分ごと化しようと思わなくてもいい。ある人が心地いいことでも、自分もそうとは限らない。公私において、いつも心に留めているのは「人はみんな違う」という前提だ。

「私を含めて人って、自分と違う存在を前にしたときに、どうしても『わ！』と驚いて、『違う』と指摘しがちです。私も日米にルーツがあることで、そういうふうに見られたり、対応されたりすることも多かった。そういう体験もあって、常に『違う』ということをいったん受け入れるように心がけています。そうすると、相手が自分にないものを持っていることに気がつきますし、そこにリスペクトが生まれる。『違う』からこそ面白いし、その部分をもっと知りたいと思えば、多様な価値観を認めていけるのではないでしょうか」

クリスさんは「わからないことも面白い」という。そのスタンスは、ときに難解な専門家の言葉を私たちの側に引き寄せ、「自分と関わりがあることなのかもしれない」「何かできることがあるのかも」と考えるきっかけをくれる。

「まずは自分が知りたいと思うことが第一ですが、そのうえで、話す方とリスナーのみなさんの橋渡しになれるなら、こんなにうれしいことはありません。世界では個性豊かな人たちが多様な価値観をもって生きている。その言葉に耳を傾けないなんて、すごくもったいないじゃないですか」

PROFILE

クリス智子　くりす・ともこ
1971年、アメリカ・ハワイ州生まれ。大学卒業時に東京のFMラジオ局J-WAVEでナビゲーターデビュー。現在は毎週月曜日から木曜日の午後1時～4時の番組「GOOD NEIGHBORS」のナビゲーターを中心に、同局の番組を数多く担当。ラジオパーソナリティのほか、MC、ナレーション、トークイベント出演、エッセイ執筆や音楽制作、作詞など、幅広い分野で活躍している。

●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Photo：Tetsuo Kashiwada　Hair & Make-Up：RYOO　Text & Edit：Yuriko Kobayashi