昆虫食をアップサイクルした「コオロギのヘアオイル」って、どうなの?
新たなタンパク源として、世界中で関心が高まりつつある「昆虫食」。少しずつ「食品としての昆虫」が食料品店に並びはじめ、食べられるレストランも増えつつあります。「食用だけではなく、美容の分野でもこの昆虫を活用できないか」と開発されたのがChu’s(チューズ)のヘアオイルです。どういう点がサステナブルで、いったいどんな効果があるのでしょうか。
いろいろな昆虫食が広まってはいるが、代表格はコオロギだろう。きたるべきタンパク質クライシスの救世主として大いに期待が高まっているのだ。コオロギは、雑食性で養殖に向いているうえ、他の昆虫に比べて非常に味がいいのが、その理由だという。
コオロギは通常、いったんパウダー状にされてから、加工食品になる。この「コオロギパウダー」を製造する過程で、「コオロギオイル」が副産物として発生するのだ。
コオロギパウダーを1tつくる際、200〜300kgのオイルが発生する。これまではただ廃棄されるだけだったが、このオイルの有効利用としてと考え出されたのがChu’sの「CRICKET CARE OIL for HAIR」だ。このヘアオイルは「サスティナブルコスメアワード2021」を受賞し、注目を集めている。
Chu’sは東京農業大学バイオロボティクス研究室・佐々木豊教授と、ある共同研究を行っている。食用コオロギを育て、それを食品として販売するとともに、加工過程で抽出されるオイルをヘアオイルの原料として利用する、ワンストップソリューション(一度の手続きや作業で全問題が解決できること)の開発だ。
「今後、食料、エネルギー、環境問題の解決のためには、昆虫の利活用が必要不可欠だと考えています」(佐々木教授)。
話をヘアオイルに戻そう。この商品は、コオロギオイルをメインにスクワランやアーモンドオイルなどを加えた天然由来成分だけを使用。合成保存料や合成着色料、シリコンなどはいっさい使っていない。
100%ナチュラルの場合、重めのテクスチャーの商品が多いが、このヘアオイルはさらりとしており、髪の毛の温度を下げることがないため、ヘアアイロンの使用前につけるオイルとしても使いやすい。
商品開発の際、一番大変だったのは「香り」の問題だったという。原料のピュア・コオロギオイルはエビ、カニなどの甲殻類のような香ばしい(!)匂いが強く、これを「いい香り」にするのに難航したそうだ。
こうしたケースでは、一旦無臭化してから香りづけ加工をするのが一般的。しかし、「アップサイクルを目的とした商品なのに、原料のナチュラルな状態を壊してしまうのはいかがなものか」と考えた開発チームは、もとの香りを残したまま調香することに。
さまざまな香りを試した結果、自然界からとれたオイルには、同じく自然界に存在している香りが合うことがわかり、ラベンダーとローズマリーの香りを配合することになった。その結果、コオロギオイルの香りがまったく気にならない、フローラルな香りが完成した。
現在は公式ウェブサイトのほか、生活雑貨商品店内でのポップアップストア、都内のヘアサロンなどで販売、今後さらに販路を増やす予定だ。
秋にはその「いい声」で私たちを楽しませてくれるコオロギが、私たちのタンパク質危機のみならず、ダメージヘアの救世主にもなってくれそうだ。
text:荒井風野