廃棄物を利用したファッションで、日常からアクションを
誰もが毎日まとう服。何げなく着ている服もあれば、思い入れのある一着もあるだろう。「デザインが気に入った」「値段が手頃だから」「長く着られそうだから」など、選ぶ理由は人それぞれだが、最近は「地球に優しいから」という理由で選びたくなるような、素敵な生産背景を持つプロダクトが増えている。そこで今回は、2018年より、現代アートを軸にとらえたアプローチでサステナブルなものづくりに挑んできた「Atelier M/A(アトリエエムエイ)」の魅力をお届けしたい。
都心に住みながら、自然と共生する
日本の服飾専門学校を卒業後、イタリアに渡りミラノの服飾専門学校で服づくりを学んだデザイナー小出真人さんとパタンナーの小出梓さん。イタリアの自然豊かな田舎町ビエッラを拠点に展開するライフスタイルブランドで働いた経験が、いまのクリエイションに生きているという。誰かに誇示するためでなく、自身が幸せを感じるための服づくり。真人さんは、「食やインテリアを独自の美意識で整え、自然体で楽しむイタリア人の生き方に触れ、装うことは暮らしの断片ではなく、衣食住すべてがつながっていると気づかされた」と語る。そして帰国後、「都市に住みながらでも、自然と共生できる新しいライフスタイルのかたちを提案したい」と、ブランドを立ち上げた。そんなふたりが手がけるのは、「まるでアートに触れたときのような、心揺さぶられるエモーションを感じられる服」。当たり前とされている常識への疑問、あらゆる社会課題へのコミットを目指す。
たとえば服づくりの工程で大量に生まれる端切れや糸くず。コットン衣料をつくるための綿花を採取したあと、種子に残るうぶ毛。使用済みペットボトルやレジ袋など、捨てられてしまうものや不用品を再生することで、美しさと多様性を引き出すプロダクトを展開する。
リサイクル原料とオーガニックコットンを融合
リサイクルをもっとポジティブに。リサイクルだからこそできる素材開発に力を入れる「Re Atelier M/A」が、既存の手法とは異なる新しいかたちを模索しながら生み出した、オリジナル糸を使ったコレクションを紹介しよう。
リサイクル原料とオーガニックコットンからできたオリジナル糸を使った、カラフルなラインが目を引くニットワンピース。ネップ(繊維が絡み合ってできた糸のかたまり)部分の原料は、裁断後の余り生地、端切れ、サンプル生地などバランスを考慮しながら混ぜ合わせ、ミキサーと手作業で約3.8mm以下の長さまで粉砕したものを、さらに岐阜県の紡績工場で無染色のオーガニックコットン(78%)と落ち綿(20%)をベースに紡績したものだ。
「従来の工程に比べはるかに手間のかかる作業ですが、柔らかな風合いと多様な繊維がちりばめられた豊かな表情は、リサイクルだからこそなせるワザ。現代の工業生産では均一的なクオリティが求められますが、必ずしもそれが豊かさにつながるとは考えていません。均一性や効率性、利益を追求するなかで取りこぼしてしまうものを、いま一度見直して、再生していけたら」(真人さん)
廃棄予定のリボンを使ったラップスカート
ときには主役アイテムとして大胆に。ときにはポイント使いにさりげなく……自由な発想にフィットするリボンラップスカート。
全体にあしらったカラフルなリボンは、服飾資材メーカーSHINDOのもの。販売を継続できず廃番予定となったものだそう。配色や素材など表情の異なる数種類のリボンをひとつ一つステッチでつなぎ合わせたハンドメイドで、一点ずつ配色パターンが異なる。つまりこの配色は世界にひとつだけ。そう思うと、なおさら愛着がわいてきそうだ。
端切れや糸くずから生まれた夏小物
真人さんが長くファッションビジネスに関わるなかで、「服づくりの工程で大量に出るサンプル生地や端切れ、糸くずを再利用できる方法はないだろうか?」と考え続けて生まれたという小物たち。バッグやケース、ピアスなどが揃う。
服づくりの工程で発生するサンプル生地、端切れや糸くずのほかに、ショッパー・バッグやレジ袋、草花や端材などのリサイクル原料を樹脂で固め、透明のオレフィン樹脂に圧着。一点ずつ手作業で仕上げている。
「トラッシュボックスの中をのぞきこむような、日常の意外なところに美しさを見出すアート作品のようなコレクション。すべてが異なる表情を持つのも、リサイクル原料の魅力です」(真人さん)
構成・文/大森奈奈