科学的視点と美しさを併せ持つボタニカルアートの世界
「キューガーデン」の愛称で親しまれているキュー王立植物園は、3万種以上の植物と約1万4000本もの植物が植えられた世界最大級の植物園です。現在は世界的な観光地としてだけでなく、植物と菌類の科学的分野の研究機関として世界をリードしており、2003年には歴史的価値と植物学に果たした役割が評価され、ユネスコ世界遺産に認定されています。
東京都庭園美術館(東京・目黒)で9月18日から11月28日まで開催されている「キューガーデン 英国王室が愛した花々 シャーロット王妃とボタニカルアート」では、そんなキューガーデンに所蔵されている22万点を超えるボタニカルアートの中から18〜19世紀に制作された約100点と、キューガーデンを愛したシャーロット王妃のお気に入りだったウェッジウッド社の陶磁器など英国王室ゆかりの数々が展示されています。
最初は小さな庭園だったキューガーデンでしたが、ジョージ3世とシャーロット王妃の時代に規模を拡大。当時ヨーロッパを席巻していた啓蒙思想なども背景にし、研究機関として飛躍的な発展を遂げました。なかでもボタニカルアートは単なる絵画としてだけでなく、草花を科学的な視点をもって精緻に描くことが求められる「植物学的な芸術」として、自然科学の発展のためになくてはならない存在でした。今回の展示は科学的視点と圧倒的な美しさをもつボタニカルアート約100点を一挙に鑑賞できる貴重な機会です。
日本ではあまり知られていないシャーロット王妃の功績を知ることができるのも、この展覧会のもうひとつの魅力です。植物と芸術を愛した王妃はキューガーデンを愛し、発展に尽力しましたが、同時に植物画家の活躍も後押ししています。ボタニカルアートの流行によって多くの優れた植物画家が誕生しましたが、その中には女性の画家もいました。女性に許される職業の選択肢が限られていたこの時代、植物画家の道は女性の社会進出を大きく助けることになりました。
また、シャーロット王妃は創業したばかりのウェッジウッド社の陶磁器に注目し、「クリームウェア」シリーズを愛用しました。さらに王室御用達の陶工に認定し「クィーンズウェア」の称号を与えたことで国内外から注文が殺到、一躍ウェッジウッドは世界的に知られることになりました。今に続くウェッジウッドの成功には、実はシャーロット王妃が大きく関わっていたのです。
自然と芸術を愛し、政治的な野心がないことを期待されてドイツから輿入れした王妃でしたが、キューガーデンの発展に尽力しただけでなく、女性の社会進出を後押しし、産業振興の手助けをして英国の発展に大きく寄与していたのです。
アール・デコの建築が美しい本館とホワイトキューブの展示室がクールな新館、それぞれの特徴を活かした華やかな展示を堪能したら、新館で視聴できる映像作品も最後にぜひ。歴史的な価値を持つだけでなく、未来へと続く植物学の研究機関として本気の取り組みをおこなっているキューガーデンの現在の姿も知ることができます。
お知らせ
【展覧会情報】
キューガーデン 英国王室が愛した花々 シャーロット王妃とボタニカルアート
会期:2021年9月18日(土)–11月28日(日)
開館時間:10:00–18:00 *入館は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日 ただし9月20日(月・祝)は開館、9月21日(火)は休館
会場:東京都庭園美術館 本館+新館
入館料 :一般=1,400(1,120)円/大学生(専修・各種専門学校含む)=1,120(890)円
中・高校生=700(560)円/65歳以上=700(560)円
※( )内は20名以上の団体料金 ※小学生以下および都内在住在学の中学生は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神 障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその介護者2名は無料
本展は日時指定の事前予約制です。
主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都庭園美術館
特別協力 英国キュー王立植物園
後援 ブリティッシュ・カウンシル
協力 日本航空
企画協力 株式会社ブレーントラスト
年間協賛 戸田建設株式会社、ブルームバーグ L.P.